30話目 ロール

「きっかけは簡単さ。あたしの母も、その母も、代々ハニワ職人だったんだ」


 ステンノは、肩をすくめて言った。


「ハニワ職人は、代々女性のかたが受け継いできたんですか」

「まあ、そうだね」


「男性は、ハニワを作らないんですか」

「まあ……そこはいろいろあってね」


 ステンノは、明らかに言葉を濁したように思える。


「そもそも、ハニワとは、何を目的にして作られたものだったんでしょうか」

「もともとは、一部の特権階級の者が使う、召使いみたいなもんだったらしいよ。最初は、量産する技術もなかったから、数も限られてたんだ。あたしが生まれるずっと前のことだから、あたしもちゃんとは知らないけどね」


「ステンノさんが約3,000 歳 なんですよね。ハニワの歴史はそんなに古いんですか」

「そうさ」


「先ほど工房見学のときに聞いた話だと、今のハニワは、召使いというよりも、労働者、もしくは諜報員のように感じました。広い意味では召使いみたいなものかもしれませんが」

「あるとき、事件があってね。ハニワの役目が変わったのさ」


「事件?」

「あたしが200歳くらいの頃、村が襲われて、焼き払われたんだ」


「襲われた? 誰にですか」

「土偶さ。おびただしい数の土偶が、急に現れて、わけも分からない内に村中むらじゅうに火を付けられて、気づいたら村は壊滅さ」


「それはひどい」

「幸い、あたしの母は無事でね。その事件をきっかけに、ハニワの制作方法に革命を起こして、量産を可能にしたんだ。そして、ハニワは召使いから兵士になったのさ」


「兵士?」

「また、土偶が襲ってきたときに備えて、村をハニワに守らせようってわけさ」


「実際、再度の襲撃はあったんですか」

「あったよ、何度もね。そのたびにあたしは、戦いで壊れたハニワや土偶の欠片を持ち帰ってきて、ハニワの材料に再利用したもんさ。制作過程で、再教育が行われるようになったのは、そのときからだよ。土偶のほうの精神が残ってると危険だからね」


「しかし、いったい誰が、何の目的で村を襲ったんですか」

「それは、まだ分かってないんだ。それを探るために、ハニワたちは、徐々に、兵士から諜報員へと、その役目を変えていったのさ」


 ステンノとハニワに、こんなに重い過去があったとは。


「しかし、それからもう 2,000年 くらい経ってるわけですよね。それだけ経って、まだ首謀者が分からないとなると、もう難しいかもしれませんね」

「あはは。今はもう首謀者探しもしてないよ。ハニワも、今は諜報活動をしてるわけじゃない。時代は変わったのさ」


「では、今のハニワは何を?」


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 今のハニワは何の役目を担っている?

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