23話目 どこへ
「ハニワ工房見学はいかがでしたか」
防護服に身を包んだ、猫目の係員がたずねた。
ステンノの目を見た今なら分かる。この係員のこの目は、猫ではなく、蛇だったのだ。きっと、この工房は蛇星人によって運営されているのだ。
「いやあ、たいへん興味深かったです。まさかハニワが、あのように作られているとは。特に職人さんが素晴らしかった」
防護服を脱ぎながら答えた。
ここは工房の入り口である。見学者は着任室には入れないそうなので、仕上げ室を出たところで見学は終了し、再び入り口へと戻ってきたのだ。
「そう言っていただけると救われます。このハニワ工房見学、あまり
「おや、どうしてでしょうか。とても楽しかったですよ」
「皆さん、見学を終えると、気持ち悪いとか、怖いとかおっしゃって、逃げるように帰っていかれるんです」
「それはなんとも、お察しします。しかし、真に良いものが万人に受け入れられないのは世の常です。気を落とさないでください。自分は、今やこのハニワ工房に愛情すら抱いていますよ」
「ありがとうございます。本当に嬉しいです」
蛇星人の黒目が細くなる。これは、笑っているのだろうか。
「ところで、あの、お連れ様がたいへんご立腹のようですが」
言われて気がついた。ササキが何か言っている。どうやら、ステンノに心を奪われて以降、無意識の内にササキの声をシャットアウトしていたようだ。
蛇星人の係員から、少し距離を置き、ササキと話してみることにする。
「ごめんごめん。どうしたの」
「どうしたのじゃないでしょう! ずっと無視して!」
「無視してたわけじゃないんだよ。本当に聞こえてなかったの」
「なんで聞こえてないんですか。ずっと猛抗議してたのに」
「抗議? なんに対して?」
「ここには、僕の修復に来たんでしょう! なんでステンノ様を口説いてるんですか」
「ああ、そう言えばそんな話もあったね。でもそれはあとで。今は、ステンノさんとのデートが優先だよ。ものごとには優先順位というのがあるからね」
「いやいやいやいや。おかしくないですか」
「恋は盲目だから」
「あなたが盲目的なのは同意しますけど」
「で、ステンノさんはどんな食べ物が好きなのかな」
「この状況で、僕が協力すると思ってるんですか」
「してくれないの? それなら、マッターホルンちゃんの肉はスシルーに売り飛ばして、君を粉々に砕くだけだけど。協力してくれない土器の欠片に用は無いからね」
「ちょっと外道すぎませんか」
「だいたい君さ、バラバラに砕けたときに、もうこのままで良いとか言ってなかったっけ。なんで修復されたくなったの」
「どうせなら、綺麗な身体でマッターホルンちゃんと眠りたいと思ったんです」
「マッターホルンちゃんは、綺麗な身体どころか、三枚におろされて、ちょっと喰われてるけどね」
「あなたが食べたんでしょうが!」
「君も食べたよ」
「無理矢理、食べさせられたんです」
「でも、美味しかったでしょ」
「はい。それはもう」
ササキをからかって遊んでいる場合ではない。話を戻そう。
「で、ステンノさんの好物はなんなの」
「知りませんよ」
「あれ、この期に及んで協力してくれないの」
「本当に知らないんですよ。だって僕、ハニワになってすぐに地球に降りちゃったし、普通のハニワは職人さんと会話とかしないですから」
「使えない土器め」
「あなた、だいぶ人間やめてますね」
ステンノと何を食べるか、自分で考えなくては。
ふと、頭にある食べ物が浮かんだ。
ちんすこう。
これだ。実は、名前を知ってるだけで、どんな食べ物なのか知らないのだが、ちょっと
よし。ステンノと夜のちんすこうとしゃれ込もう。
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さて、どこに、ちんすこうを食べに行く?
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