1話目 いつもの満員電車
今朝も、満員電車に揺られ、会社に向かっている。
いつもと同じ日の繰り返し。
車両には、ぎっしりと人が詰め込まれ、スマートフォンを操作するスペースもない。できることは、思考だけだ。
自分は、本当は何がしたいのか。それが分からないまま、とりあえず就職し、もう2年も経ってしまった。
今の生活に、大きな不満があるわけではない。仕事はそれなりに大変だが、あくまでそれなりだ。人並みの給与はもらえているし、人並みの生活を送れている。
しかし。
このままでいいのか。
そんな思いが、毎日、頭をよぎる。
この日常を続けることに対する疑問が、頭をもたげる。
この疑問がどこから来るのか。それも分かっている。
子どもの頃から、「夢を叶えることが、人生における至上の目的である」と刷り込まれているからだ。
学校でも、テレビドラマでも、漫画でも、小説でも。
夢を持ち、それを叶えることが成功だと教え込まれる。
それは同時に、夢が見つからない者、夢を叶えられなかった者は失敗者であると教えられていることにもなる。
しかし、今、日本で暮らす1億人以上の人間の、果たして何人が、夢を叶えているというのか。日本経済を支える会社員の内、果たして何人が、やりたい仕事をやれているというのか。
それを考えると、世の中の半分以上の人間は、失敗者なのではないか。
しかし、一方でこう思うこともある。
毎日、普通に暮らせることこそ、幸せなのではないか。
命が危険にさらされることもなく、そこそこ美味い飯が食えて、友人や家族と笑いながら話ができる、そんな時間を過ごせる人生こそ、成功なのではないか、と。
理屈ではそう思えても、幼い頃に植え付けられた、夢の教えは強烈だ。自分の心の一部が、普通の生活を送ることを許してくれない。
そしてそれは、ふとした瞬間に、こうささやいてくる。
「夢を叶えなくていいのか? このまま、普通の暮らしに埋もれるつもりか?
このままでいいのか?」
くそ!
思考することしかできない、満員電車に揺られているこの時間は、どうしても余計なことを考えてしまう。
気づくと、電車は会社の最寄り駅に着くところだった。
徐々に減速し、ホームの横で停止する。空気の噴射音が響き、ドアが開いた。
ここで降りなければ、何かが変わるかもしれない。それが、ただの逃避であることは分かっている。
それでも、人生を変えるきっかけのひとつにでもなってくれれば、という思いもある。
目の前のドアは、あと数秒もすれば閉まるだろう。
どうする?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます