星とピアノと少女
ういんぐ神風
あらすじ
雪の下。眩しく賑わう繁華街に幸福の聖夜。
街はクリスマスイブを祝う人々と祝福が満たされていた。
なのに、僕はこの世を心底から呪いながらこの街を歩いていた。
陳腐な飾りに古臭い様式は、目障りでしかなかった。
きっと、それはついさっきまで勤めていたバーから解雇された八つ当たりなのだろう。
気分を晴らそうといつもの公園に迷い込む。
変哲もない、小さな公園はいつも変わらず物静かだった。
騒めく人々もいなければ、物音を一つしない空間。
悩みや苦衷と直面した時はここへやってくる。
何故ならば、ここは母さんのお気に入りであるからだ。
宇宙人、天使と出会えた場所だと、武勇伝で聞かされた場所だからだ。
チーン、チーン。
静謐を破ったのは、低い金属の音。
人気が無い、凍てつく公園には安らかな希望を与える音だった。
振り向くといつの間にか少女が立っていた。白いワンピースに、フードの先から銀色の髪を揺らし、少女が片手で何かを演奏している。
あれは打楽器、トライアングル。楽器では子供が演奏していることで知られている楽器。
「ねえ。そこのあなた」
少女は嬉しそうにトライアングルを僕に付き出す。そして空より青い双眸で僕を見つめると、喜ぶように声を発する。
「拙はマーキュリー。友人が与えたこの楽器で「きらきら星」を演奏したい。あなたはこの楽器はできますか?」
これが少女の申し出だった。
「……拙は宇宙から来たのです。『きらきら星』を探しているのです。この地球で初めて出会った友人と約束したのです。本当の音楽を聴いたら星へ帰還します」
それが少女、マーキュリーの願い。
僕には彼女の願いを叶えられない。
音楽の神に見捨てられた僕には、マーキュリーに音楽の真理を導くことは不可能だ。
———彼女の支えになりなさい。
瞬間に、母さんの言葉が蘇る。
それは尊敬する人の教えであれば、僕は従うしかない。
だから、そんなマーキュリーに僕は手を差し伸べ、こう言った。
「じゃあ、行こう、ピアノのところへ」
『世界がどうあるか、が不思議なのではない。世界がある、ということが不思議なのだ』
ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン
星とピアノと少女 ういんぐ神風 @WingD
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