4章 チームとして
第1話
冷たい夜風に乗り、小川のせせらぎが聞こえてくる。背後にあるククルの森からは、獣たちの遠吠えや小動物の気配がする。夜を迎えたククルの森は、より一層活気づいた様子だ。
予定よりも三時間ほど遅くククルの森を抜けたルージュ達は、取りあえず野営の準備に取りかかった。今日もヨハンが先頭に立ち、色々と食材を集めてきてくれた。焚き火の横で焼かれている川魚も、ヨハンが人数分取ってきてくれたものだ。
食事を終え、一息つく頃には時刻は十時を回っていた。
オークの洞窟を抜けてから、無駄な口を開く者は誰もいなかった。アリアスもシシリィも、必要なことは話すが、それ以外では一切話さない。四人の間には、今までにない硬質で緊張感のある空気が漂っていた。緊張の中心にいるのが、長閑な笑みを浮かべるヨハンだった。
ヨハン・クルロック。ルージュの向かい側に座る男は一体何者なのだろう。数時間前まで、ヨハンをただの世間知らずの田舎者、センスの欠片もない駄目な人間だと思っていた。しかし、ヨハンの中から出てきた『アルビス』と名乗る人格は、剣技もアリアスと同等かそれ以上、魔晶石が無くとも魔晶を扱うなど、人間離れした事をやってのけた。
魔晶戦争を引き起こした魔神アルビス。アルビスの言葉をそのまま信じるわけではないが、魔晶術の凄さを目の当たりにしたら、それを信じたくもなる。
(それにアルビスは私を殺そうとした。結局は助けてくれたけど、あの目は、本気だった)
殺意を向けられたルージュだから分かるが、あの時、確かにアルビスはルージュを殺そうとした。それを寸前で引き留めたのは、他でもないヨハンだった。今はこうして一緒に焚き火を囲んでいるが、いつまたアルビスに命を狙われるとも限らない。ルージュは、ここ数時間、オークに捕らえられた時以上に神経をすり減らしていた。
誰もがヨハンに詳細を尋ねたいはずだが、尋ねる事が出来なかった。アルビスが何者なのか、それを知ってしまえば、元に戻れない何かがあることに皆気づいているのだ。
この重苦しい沈黙もそうだが、これ以上、異様なプレッシャーを感じていたのでは身が持ちそうにもない。唾を飲み込み、深呼吸をしたルージュは、炎越しにヨハンを見つめた。
「ねえ、ヨハン」
意を決し、ルージュは口を開いた。アリアスもシシリィも、待っていましたとばかりに興味深い表情を浮かべ、ルージュとヨハンを見比べた。
「アルビスって何者なの? 説明してくれると助かるんだけど」
「うん? うん……」
平たい石に腰を下ろし、焚き火を木の枝で突いていたヨハンは、枝を炎の中に投げ込むと三人を見つめた。
「ヨハンさん、私もずっと気になっていたんです。是非、聞きたいです」
「俺もだ。アイツのことを聞きたいな。それと、お前のことも」
皆に言われ、ヨハンはコクリと頷く。細められた視線は焚き火に注がれており、青い瞳が琥珀色に輝いていた。辺りで響く虫の音に乗って、ゆっくりとヨハンの口から過去が語られた。
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