第77話 ギガコウモリ戦、再び

 横で飛んでいるモージル妖精王女が、驚いた声で言う。


『流石トルムル様です。

 マグニの効果があるとはいえ、神級火炎ゴッドファイアを使えるとは!』


 え……?

 神級火炎ゴッドファイアって、大賢者しか使えないはずだけれど……。それに、マグニの効果って……?


 そうか、そういう事か!

 これが、妖精と心が繋がる効果なんだ。


 マグニも驚きながら言う。


『トルムル、凄いな!

 俺からの効果があるとはいえ、ここまでの火力が出せるなんて。

 こんなに火力が強い奴って、歴史上殆ど居なかったよ』


 ほんと、驚きだよね。


 そうだ!

 予想を上回る効果に、ボーッとしている場合ではないよな。


 ギガコウモリ達は、突然の攻撃を受けて四方に散開を始めている。


 俺は再び神級火炎ゴッドファイアを数回発動した。


 ゴォア〜〜〜〜〜〜〜〜!!

 ゴォア〜〜〜〜〜〜〜〜!!

 ゴォア〜〜〜〜〜〜〜〜!!


 数回の轟音と共に、巨大な火炎がギガコウモリ達を襲う。

 火炎によって、昼間の太陽の様な光が数度、辺りを照らした。


 今度も神級火炎ゴッドファイアで、何も出来ないまま魔石になって落ちて行くギガコウモリ達。

 殆どのギガコウモリは魔石になった。


 けれど、下に降下していったギガコウモリ達は無傷のままだ!


 下の方は森が広がっており、もし、神級火炎ゴッドファイアを使うと森林火災が起きてしまう。

 木々や森に住んでいる多くの生き物が死ぬので、もはやこの魔法は使えない。


 ギガコウモリ達は、森の中に身を隠して移動している。

 どうする俺?


 ふと、昼間の光景を思い出す。


 それは、ラーズスヴィーズルが痺れの毒によって倒れた場面だ。

 そして彼は、再び起き上がった。


 そうだ!

 痺れる毒を森中に撒く。


 そうすると、ギガコーモリ達は痺れて飛べなくなり、地面に横たわる。

 そこを火炎以外の魔法で攻撃すればいいのでは?


 森に住んでいる動物達も巻き添えになるけれど、命には別状はない。

 しばらくの間、動けなくなるだけだ。


 我ながらいいアイデアだよね。

 それに、両手で違う魔法を発動できるので、痺れの魔法と、風の魔法を併用すれば広範囲に痺れの毒を撒くことができる。


 右手で初級痺魔法ナムネスと、左手で初級微風魔法ブリーズを俺は発動した。

 初歩魔法を俺が発動すると、ランクが1つ上がる。


 けれど、痺魔法ナムネスはドゥーヴルの影響で更に上がるはず。

 2ランクは軽く上がると思うので、これで十分だと判断した。


 突風に乗って、強力な痺れの毒が森に向かって行く。

 木々が突風で揺れて、小枝の擦れる音が聴こえてきた。


 それと同時に、ギガコウモリが落ちる音も聞こえてくる。

 更に、もっと小さな生き物達の落ちる音も……。


 ごめん!

 ギガコウモリを全て魔石に変えたら、君達に解毒の魔法を発動するから……。


 横で見ていたドゥーヴルが、関心しながら俺に言う。


『これは驚いた! 俺が得意の、痺魔法ナムネスを使ったよ。

 まさか、この状況下で使うとは!」


 モージル王女も、感心して言う。


『トルムル様には、本当に驚かされる事ばかりです。

 この状況下では正に、痺魔法ナムネスが最も効果的な攻撃魔法。


 しかも、最大痺魔法ウルティメイトナムネスと、突風魔法ガーストの魔法を同時に使うなんて!


 遥か昔、大賢者が使われた以来です』


 そうなんだ。

 これで、大賢者に一歩近づいたかな?


 さて、掃討戦に行きますかね。


『掃討戦を開始します』


 俺はそう言うと急降下して、森の中に入って行く。

 痺れで苦しんでいるギガコウモリの気配を頼りに場所を特定。


 そこに行くと、初級魔法の雷撃ライトニングストライクを発動した

 俺の魔力で初級魔法は、ランクが1つ上がる。


 さらにモージル王女と心が繋がっているので、さらに魔法のランクが上がる。

 つまり、ランク2つ上がった最大雷魔法アルテメイトライトニングになってギガコウモリを襲う。


 ゴロゴロ、ピカァーーーーーー!!


 巨大なイナズマが、音と共にギガコウモリを魔石に変えていった。

 森の広範囲にギガコウモリ達がいたので、モージル王女達と別れる。


 俺は繰り返し、同じ魔法を発動する。

 モージル王女達も、魔法を使ってギガコウモリを魔石変えていっているみたいだ。


 ギガコウモリを全て倒し、痺れを取る解毒魔法を発動した。

 これで、森に住んでいる動物達が元の状態に戻るはず。


 ……?

 おかしいぞ!


 ギガコウモリの気配が上空からしている。

 何で?


 もしかして……、自らの気配を消して、俺が解毒魔法を使うまで待っていたのか?

 1匹だけだけれど、とても手強そうだ!


 とっさに、自らの気配を消す決断力は並のギガコウモリでない。

 もしかして、リーダー格のギガコウモリか?


 俺は上空に舞い上がって、ギガコウモリを追った。


 いる!


 町の方に、一直線に向かっている。

 たった1匹なのに、凄い根性だ。


 この方角から神級火炎ゴッドファイアを使うと、ウール王女を巻き込んでしまう。

 どうしたらいい?


 そうだ!

 エイル姉ちゃんなら、このギガコウモリを落とせるかもしれない。


 エイル姉ちゃんとウール王女にすぐに連絡を入れる。


『撃ち落としたギガコーモリがそちらに向かっています!

 そちらから見えますか?』


 緊張した声で、エイル姉ちゃんは返答してくる。


『ここからでも、ギガコウモリが見えるわよ、トルムル。

 コイツを撃ち落とせばいいのね?』


『お願いします』


 俺は、緊迫した声で言う。


『任せて!』


 姉ちゃんはそう言ったけれど、本当に大丈夫なんだろうか?

 ギガコウモリは俺達が近くに居ないので警戒心が無く、今も一直線に進んでいる。


 突然、ギガコウモリの気配が消えた。

 も、もしかして、姉ちゃんが撃ち落としたのか?


 まさか、エイル姉ちゃんが本当に撃ちお落としたのか…?


『トルムル、安心して。

 撃ち落としたわ』


 ワァ〜〜〜〜〜〜オ!

 マジですか1


 エイル姉ちゃんって、弓矢の腕前、相当なものだったんだ。

 あんなに遠くに飛んでいたのに……?


 そういえばエイル姉ちゃんって、学園創立以来、歴代2位の成績で卒業していたのを忘れていたよ。

 こ、これからは、姉ちゃんをもっと信頼してあげないとな。


 姉ちゃんがいつもの様に、早口で言う。


『トルムル。

 それよりも、ケンタウルスは全て魔石に変えたわよ。

 怪我人も少なくて、みんな大喜びしているわ。

 妖精達の活躍で、とても戦いやすかった。


 光の妖精は、ケンタウルス達を明るく照らしてくれたし。

 水の妖精は、火矢を使おうとするケンタウルスの矢に水を掛けて消してくれた。


 風の妖精は、ケンタウルス達から放たれた矢を風で逸らしてくれたわ。

 ウール王女も、的確にケンタウルスの位置をヒミンに教えていたし、私も多少教えた。


 トルムルの作戦は、今回も大成功だったわよ。

 ありがとう、トルムル』


 そうか、よかった〜〜。

 思ったよりも早く終わって。


 これで家に帰って寝れる〜〜。

 まだ育ち盛りの俺には、睡眠が必要だ!


 お肌と頭の毛、そして乳歯の為にはたっぷりと寝ないとな。

 それから俺は、ヒミン王女のいつものセリフを聞いて、モージル王女達と帰途に着いた。


 ◇


 翌日、夜明け前に目が覚めた。

 起きると、外がやけに騒がしい。


 店の前を、多くの人が通り過ぎている音がする。

 何でこんなに、朝日が上る前から町の人達が起きているの……?


 町の人達が言っているのを聞いてみる。

 魔法で聴力を上げているので、余裕で彼らの声が聞こえてきた。


「西の森に早く行かないと、ギガコウモリの魔石を拾えなくなるよ」


「ハゲワシさんが、森に落ちた魔石は、見つけた人達にどうぞって言ったって本当なのか?」


「ケンタウロスの魔石を昨夜持ち帰って、今度はギガコウモリの魔石だよ。

 これで、家計が潤うよな」


「ハゲワシさんって誰なんだろう?

 ギガコウモリの魔石を、自由に持ち帰っていいと言ったんだろう?」


「お母さ〜ん。早くー!

 お宝、なくなっちゃうよ」


 そうだ、忘れていたよ。

 昨夜、ヒミン王女に言った事を。


 森に落ちたギガコウモリの魔石はとても見つけにくい。

 所有の権利を放棄するから、町の人達で拾って下さいと。


 そうか〜〜。

 それで朝早くから、西の森に町の人達が行っているんだ。


 ギガコウモリの魔石1個で、家が買えるほど高価だと父ちゃんが言っていたよな。


 あれ……?


 エイル姉ちゃんが、出かける用意をしている……。

 ま、まさか……。


 姉ちゃんもギガコウモリの魔石を拾いに行くの?

 すでに姉ちゃんは、お金をタップリと稼いでいるのに……?


 今回ぐらい、町の人達に魔石を拾わせた方がいいと思うんだけれど……?


 姉ちゃんは俺の部屋を開けて言う。


「トルムルも行かない?

 ギガコウモリの魔石探し?」


 やっぱりそうだ。

 しかも昨日、俺が言った事を忘れている……。


『私は行かないです』


「え〜〜。どうして?

 信じられない!

 仕方ないわ。私1人で行ってくる」


 信じられないと姉ちゃんから言われてしまった……。

 これでもし、もしもだよ。エイル姉ちゃんに王子の彼氏ができたら大変だよね。


「バブゥーーーーー」


 おっと。

 俺。まだ赤ちゃんなのに、ため息をいてしまった。


 ま……。

 姉ちゃんに、王子の彼氏ができることは絶対になさそう……。


 でも、他の姉ちゃん達の彼氏はみんな王子なので、エイル姉ちゃんも……も、もしかして……?

 でも、そんな奇跡みたいな出来事、起こるわけ無いか〜〜。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る