第74話 ヒドラの折り紙


 シブ姉ちゃんの住んでいる国から帰った俺達。

 父ちゃんが、いつものように店番をしている。


「と〜と。ただー」


「お父さん、ただいま〜。

 クラーケンのお土産、タップリあるよ〜」


 エイル姉ちゃん、お土産をもらったので上機嫌。

 馬車の上には、横からはみ出ているほどクラーケンの足がある。


 冷凍状態なので、いつでも美味しいクラーケンの足が食べれるので嬉しいみたいだ。

 地下に置いて、定期的に氷の魔法を使えば鮮度が保てる。


 馬車に乗っている半分は、ヒミン王女が城に持って帰る。

 王女の妹で、俺の彼女でもあるウール王女の土産として。


 この量を見たら、きっとウール王女は驚くはずだ。

 ウール王女からの連絡が待ち遠しいよ〜〜。


「お帰り、エイルにトルムル。

 クラーケンのお土産って……?」


 作業中だった父ちゃんは、顔を上げて馬車を見る。

 店の窓から馬車の上に載っているクラーケンの足を見て、目が段々と大きくなっていく。


 あまりにも量が多いので、父ちゃんは目を見開いたままだ。

 あ……。やっと話せるようになったみたい。


「こ、こ、こ、これって、全部クラーケンの足な、なのかい?」


 あまりにも量が多いので、それを見た父ちゃん。

 口調が少しおかしい……。


「半分だけね。残りはウール王女のお土産。

 トルムルったら、ウール王女の為にタップリと持って帰りたいと言ったのよ」


 半分だけって言っても、それでもすごい量があるよエイル姉ちゃん。

 それに、事実を言っていない!


 姉ちゃんも、同じぐらい持って帰りたいと言ったのに〜〜。


 とにかく、今回の旅は大成功だったよね。

 疫病を止める事ができたし、スキュラを倒した。


 それに、神の娘であった強敵のカリュブディスを追い払うのにも成功したし。

 今度カリュブディスと戦う時は、退路を絶ってから攻撃しないとな。


 それに、ハーリ商会のスールさんとの共同経営の話も、思っている以上に上手くいった。

 そういえばスールさん、凄く驚いていたよね。


 24隻建造できるほど、俺がお金を出せるのを。

 俺も、そこまで船が建造できるお金が出せるとは思わなかったけれど……。


 ヒミン王女が細かな計算をしてくれて助かったよ。

 でも俺って、そんなに船を買えるほど金持ちだったんだ……。


 スールさん、俺が資金調達を申し込むとは思わなかったみたい。

 俺からの予想外の出資に、とても喜んで契約書に書いていた。


 契約書によると、純利の半分は俺がもらえる。

 今は赤字だけれど、船が建造でき次第、好転するってスールさんが言っていた。


 南の国と、東に面している沿岸部の国々は経済が活発。

 しかも、取り扱う商品も多いので、24隻新造しても間に合わなくなるくらい忙しくなるって。


 カリュブディスと海の魔物達によって、18隻以上の船が今まで沈められたと言っていた。

 でも、今回それ以上の新造船が調達できるので、ハーリ商会は世界経済に寄与できるんだって。


 しかも、巨大蛸足クラーケンレッグの攻撃魔法を付与した魔石を船ごとに設置できるので安全に航行できる。

 ヒミン王女の提案で、港湾と灯台も同じ様に巨大蛸足クラーケンレッグを設置する。


 より安全に船の航行が可能になったって、さらにスールさん喜んでいたよな。


 あ……。

 ドゥーヴルが、また変なことを言おうとしている……。


 父ちゃんに、モージル達を紹介する前に雷撃が落ちる〜〜。


『ここがトルムルの家か〜〜。


 お、妖精達の絵柄のパンティーがあるよ。

 俺たちの絵柄のパンティーはないのか?』


 バァチィィィーーーーー!!


 モージル妖精王女の雷撃が落ちたよ。

 父ちゃん、いきなり雷撃の音がしたのでビックリしている。


 父ちゃんが俺を見て言う。


「い、今の音は雷撃だよね。

 もしかして、魔物が近くにいるのかい!?」


 父ちゃん、勘違いしている〜〜。

 エイル姉ちゃんが、早口で父ちゃんに言う。


「父さん、違うのよ。

 今のはモージル妖精王女が、隣の頭であるドゥーヴルに雷撃を落としたの。


 ドゥーヴルは捻くれた性格をしていて、余計なことを言うので王女が雷撃を落とすの。

 この数日で、10回以上私はこの雷撃の音を聞いたわ。


 モージル妖精王女はトルムルと一緒にしばらく過ごすみたい。

 だから、突然雷撃の音が聞こえても、父さんビックリしないでね」


 父ちゃん、余計に混乱している。

 そもそも、妖精の王女がここに居るのかさえ、まだ知らないのに……。


「エイル。ちょっと待ってくれないか……。

 妖精の女王がここに居るのかい?」


「ええ、居るわ。

 私には見えないのだけれど……。


 トルムルは見えて、話ができるのよ父さん。

 それに、王女と服従の儀式をして、王女がトルムルに服従している。


 つまり、トルムルが妖精の頂点にいるってシブ姉さんが言っていたわ。

 そうよね、トルムル」


「とーと、そー。

 いーるー」


「トルムルは……、ヒドラの妖精王女がここに居るって言ったんだよね。

 今までも……、何回もトルムルには驚かされていたけれど……。


 まさか! 妖精王女と服従の儀式をして王女を従わせるなんて!!

 亡くなったナタリーも腰を抜かすほど驚久代、これは」


 母ちゃんも驚いているのかな?

 亡くなった母ちゃん。少しは俺を褒めてくれるかな……?


 あ、モージル王女がドゥーヴルに何かを言おうとしている。


『お父様の商売に、口を出さないの!

 分かったかしら?』


『わ、分かりました。もう言いませんから』


 いつものように、ドゥーヴルがモージル妖精王女に謝る。


 そうだ!

 ヒドラの絵柄のパンティーは無いけれど、ゴブリンの魔石から魔法を供給する、ヒドラの折り紙はできたんだ。


 父ちゃんに見せて、売る許可をもらわないと。

 俺は早速準備を始める。


 近くで見ている父ちゃんが言う。


「それはヒドラの折り紙。

 もしかして、完成したのかいトルムル?」


「とーと。みー」


 そう言っておれはゴブリンの魔石に、始める合図の魔法を送った。

 机の上にあったヒドラの折り紙は突然消える。


 そこには、完璧に再現されたヒドラが現れて、優雅に羽ばたいて飛び立った。

 そして、ゴブリンの魔石からの魔法を供給しながら、ユックリと旋回をはじめる。


 小さいながら、それはモージル妖精王女達にソックリなヒドラ。

 父ちゃんは食い入る様に見ている。


 モージル達も見ており、小さな目が大きくなってゆく。

 ドゥーヴルが、また何かを言おうとしている。


『これって俺たちだよな。

 俺達って、こんなにカッコよかったか?


 トルムルってば、すごい才能を持っているんだな。

 少しは見直したよ』


 また、雷撃が落ちる〜〜。


 あれ、落ちない……。


『ドゥーヴルの言う通りです。

 まさにこれは、私達そのもの。


 トルムル様に、この様な才能があるとは……。

 流石、トルムル様です』


 今度は父ちゃんが言う。


「これは素晴らしい。

 ここまで細かく再現できるなんて。


 トルムル、もしかして……。

 妖精王女は、このヒドラとソックリなのかい?」


 父ちゃんにはすぐに分かったみたいだ。

 いつでも細部まで見れたので、イメージがすぐにできたんだよな。


 クラーケンの足を運んでいたエイル姉ちゃんとヒミン王女、そしてラーズスヴイーズルも寄ってくる。

 エイル姉ちゃんは笑みを浮かべながら言う。


「完成したんだねトルムル。

 これって妖精女王でしょう。


 凄くカッコいいわ。

 これならお客さん、欲しがるわよ〜〜」


 ヒミン王女もいつもの口調で言う。


「流石はトルムル様です」


 ヤッパリ、モージル妖精女王に口調が似ている。

 王族って口調が似るのかな?


 ラーズスヴイーズルも言う。


「これ、ドールグスヴァリさんが作ったんですよね。

 さすが、世界的に有名な付与師です。


 でも……、この右側の頭、少し頭が悪そうですね」


 ラーズスヴイーズル、な、何でそんな事言うの〜〜。

 ここに本人がいるのに……。言ってはいけない事を言った〜〜!!


 シュウーーーーーー。


 あ〜〜〜〜。

 ドゥーヴルが、ヤッパリ口から何か吐いているよ〜〜!!


 ラーズスヴイーズルは何も分からず、ドゥーヴルが吐いた毒を吸っている。

 彼はいきなり倒れて、軽い痙攣を起こしている。


 バァチィィィーーーーーー!


 あちゃーー。

 又しても、王女の雷撃が落ちたよ。


『ドゥーヴル、どうして毒を吐いたのです。

 あれぐらいの事で、毒を吐いてはいけません!』


『い、痛いーー!

 モージル。コイツが俺の事、頭が悪そうだって言ったんだぜ。

 俺よりも、ずっと若いコイツが!』


『本当のドゥーヴルを彼は知らないのですよ。

 貴方が、頭の良いのは私が1番よく知っています。


 今すぐに、痺れの毒消しを吐きなさい』


 ドゥーヴルの事、モージル王女が褒めた……。

 ウソ〜〜!


 は、初めて聞いた……。


『……。

 あ、ああ。分かったよ』


 ドゥーヴルはそう言うと再び何かを吐いた。

 今度は毒消しみたいで、ラーズスヴイーズルの痙攣は無くなった。


 ヒミン王女が全てを察したらしく、ラーズスヴイーズルに言う。


「これからは、ヒドラの悪口を言ってはいけませんよ。

 妖精の王女はヒドラですから、きっとバチが当たったのです」


 ラーズスヴイーズルは起き上がった。

 ふらつきながら、畏怖の目で折り紙のヒドラを見ていたのだった。


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