第55話 上官殺しのバルボ


「お前は賢者なのか!?

 奴隷にする奴らを短時間で移動させることが出来るなんて!」


 バブゥー、としか言えないので返事ができない……。


 それに、『俺は赤ちゃんだ〜〜〜〜!』

 と、本当のことを言っても信用してくれないだろうしな。


「返事がないのか?

 もしかして、俺様をなめていないか!?


 俺はな、『上官殺しのバルボ』の異名を持つ山賊のかしらだ。

 魔法に関しては誰にも負ける気がしねぇ!


 これでどうだぁーー!!」


 バルボはさらに重力魔法を強めた。

 さっきよりも強く俺は引っ張られている……。


 この山賊が、王妃様の言っていた重力魔法の強いバルボんなんだ……。


 でも……、これで最大なのかな?

 余裕で抵抗できるんですけれど……?


「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ。

 もはや、抵抗もできないみたいだな!


 ハゲワシ、お前を地面に叩きつけてやる」


 ほんの少しだけ、重力魔法が強まった。

 これが本当に……、本当に彼の全力なのか?


「妙だな……?

 最大の重力魔法で、ハゲワシを地面に叩きつけるように魔法を発動したんだけれど?


 も、もしかして、もう1人居るのか!?」


 バルボは辺りを見回している。


 え〜〜と、……?

 本当にこれが、彼の最大の重力魔法なんだ。


 俺は昼寝をしないで、どうやって彼をやっつけるか考えていたんだけれど、それが無駄に終わるって事なの……?

 こ、こんなことなら、お肌と乳歯のために昼寝をしておくんだった〜〜!


 昼の休憩の時に、ユックリと寝れたのに〜〜!!


 この際だから、昼寝をしないで考えた方法をバルボに試してみるかな。

 昼寝が出来なかった恨みがあるし……。


 いつものようにオシャブリを吸って精神統一。


 利き腕でない左手の中で風の初級魔法、鎌鼬カマイタチのイメージを開始した。

 大賢者の本によると、両手でイメージ出来る人は稀だと書いてあった。


 今までは右手だけだったので、左手でやるのは始めて。

 両手でできれば、違う魔法を同時に使えるようになると。


 左手の中で、鎌鼬カマイタチのイメージができた。

 魔法力マジックパワーを使って、バルボに向かって鎌鼬かまいたちの魔法を発動する。


 ビュー〜〜〜〜〜〜!


 鋭い風を切る音が聞こえてきて、バルボを襲った。

 彼の防御魔法が発動して、盾が現れた。


 ザク、ザク、ザク、ザク、ザク、ザク、ザク、ザクーーーーー!


 けれど、盾が無数に切り裂かれてバルボにケガがを負わせる。

 カマイタチって、1回だけのはずなんだけれど……?


「血、血だ〜〜!

 顔から血が……」


 バルボの顔から、数滴の血が流れ落ちた。。

 彼の体が震え出し、顔が恐怖で歪んできている。


 あの〜〜、ほんの数滴の血だけなんですけれど?

 どうしてそこまで恐れるの……?


「う、嘘だ〜〜〜〜〜〜!!

 同時に……、2つの魔法を使える奴が居るなんて……。


 重力魔法で空中にとどまりながら、攻撃魔法を発動してやがる!

 しかも、防御魔法の盾を無数に切り裂いたのは中級の風魔法、死神鎌デスゴッドサイス!」


 左手も、右手と同じように魔法のランクが1つ上がるんだ。

 ありがとうね、教えてくれて。


 それに考えたら、今まで2つの魔法を同時に使っていたよな。

 重力魔法で飛びながら攻撃していたし。


 すると、俺は同時に3つできるってことか……?

 つまり、重力魔法で飛びながら、左右の手から別の魔法を発動する……。


 ワォーーーーー!!

 それって……、凄くね!


「わ、悪かった、俺の負けだ。

 もう何もしないでくれ」


 血を数滴流して、もう降参なの?

 両手で同時に魔法が発動できるか試したかったのに……。




 バッゴォーーーーーーーーーン!!


 あ……、アトラ姉ちゃんが超音波破壊剣ソニックウエーブディストラクションソードを使った音だ!

 人間相手に、伝説の魔剣を使って大丈夫かな?


 山賊達が大ケガをしていなければいいのだけれど……。

 アトラ姉ちゃん、少し乱暴だからな〜〜。


 バルボと共に音のする方に空中移動する。

 彼は重力魔法の使い手なのに、高所にいるので怯えている……。


 音のした上空に行くと、10名ほどの山賊達の無残な姿と、四方に逃げ惑っている他の山賊達が確認できた。


 さて俺は、これからどうしたら良いのだろうか……?

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