第49話 思わぬ効果

 今度はヒミン王女の指先が少しだけ動く……。


 それを見たアトラ姉ちゃんが、小さな声で言う。


「トルムル、もしかして指が動かなかったか?」


 アトラ姉ちゃんは、命力絆ライフフォースボンドで視力が格段に上がっているので、わずかな動きも見える。

 俺だけが見えたのではなく、アトラ姉ちゃんも見たので少し安心した。


 あ……!

 瞼がユックリと開いていく。


 ヒミン王女が目を覚ました。

 目をキョロキョロさせている。


 王女の考えが伝わって来た。

『確か私は、ミノタウルスに殺されたはずなのに』と。


 ヤッタァーーー!

 大成功だ!


「バブゥー」


 俺はそう言って、後ろにいる人達に振り向いた。

 そして、彼らが待ち望んでいた右手を上げる。


 王妃様が、ヒミン王女に足早に近寄って来る。

 エイル姉ちゃんも、アトラ姉ちゃんも近寄って来た。


 誰もが笑顔になって嬉し涙を流している。


 ヒミン王女は起き上がって4人を見ている。

 王女は、感覚がいつもと大きく違うのに気が付いた。


 そして、思ったことを王妃様に言う。


「もしかして、トルムル様が私に命力絆ライフフォースボンドをして下さったのですか?」


 王妃様は涙声で言う。


「ええ、そうなのです。

 ウールの中にトルムルちゃんが居て、ヒミンに命力絆ライフフォースボンドをして下さったのです。


 気分はどうですかヒミン?」


「痛みが無くて気分は最高です、お母様。


 それに、こんなに嬉しいことはありません。

 全ての感覚が格段に上がっていて、まるで別人の私みたいです。


 トルムル様、本当にありがとうございました」


 ヒミン王女が、今まで見た中で最高の笑顔で俺を見て、深々と頭を下げた。

 こんなに嬉しいことはないよな。


 瀕死の王女を助けられたんだからさ。

 俺も笑顔で生えかけの乳歯……?


 舌でハグキを触っても乳歯にあたらない。

 ウール王女にはまだ乳歯がはえていないんだ。


 少しだけ、俺の体の乳歯の方が成長が早いようだ。

 ちょっとだけ優越感……。


 ウール王女の乳歯のないハグキをヒミン王女に見せて俺は笑った。


 エイル姉ちゃんがヒミン王女に抱きついた。

 そして、言いながら泣いている。


「よかったわ、グスン。

 本当に良かった。グスン、グスン」


『ヒミン、よかったな完治して』


 アトラ姉ちゃんが命力絆ライフフォースボンドを使ってそう言うと、ヒミン王女が突然固まった!

 俺も、思わず固る……。


 え〜〜〜〜〜〜!

 アトラ姉ちゃんの命力絆ライフフォースボンドの声が、直接ヒミン王女の頭の中に届いているよ!


 何で?

 何でそうなるの?


 ヒミン王女がアトラ姉ちゃんを見て、命力絆ライフフォースボンドを使って言う。


『アトラさんの声が直接頭の中で聞こえました。

 ど、どうしてでしょうか?』


 今度はアトラ姉ちゃんまでも、直接ヒミン王女の声を頭の中で聞いて驚いている。


「ヒミンの声が頭の中で直接聞こえる……。

 これはいったい……?」


 2人が俺を見ているけれど、何故なのかは全くわかりませ〜〜ん。


 ん……?

 まてよ!?


 2人とも、俺から命力絆ライフフォースボンドで命を取り止めた。

 もしかして、横の繋がりが出来るのか?


 これってどう考えたらいいの?

 ヒミン王女がそれに気が付いたみたいで、興奮しながら言う。


「これは素晴らしいことです。

 トルムル様から命力絆ライフフォースボンドをしていただいた人達の間で、心の繋がりができるのです。


 遠く離れていてもその人を思って言葉を言うと、会話ができるのです。

 つまり、情報を瞬時に共有できることを意味しています」


 そういうことか!

 それって凄く便利だよね。


 エイル姉ちゃんを見ると、顔がこわばっている。


 あ……?


 仲間はずれにされたと思っているよ、たぶん。


 ど、どうしよう?

 エイル姉ちゃんが俺を見ている。


 明らかに、私にも命力絆ライフフォースボンドをお願いと思っている。


 え〜〜〜〜〜〜〜〜い!!


 エイル姉ちゃんだけ仲間はずれは、俺には耐えられない。


 今まで俺のウンチなどの下の世話を主にしていたのはエイル姉ちゃんだ!

 そのエイル姉ちゃんを悲しませたくはな〜〜〜〜〜〜い!


 決めたぞ〜〜〜〜〜〜っと。


 エイル姉ちゃんにも命力絆ライフフォースボンドをする!

 そして、俺たち5人でこの国を守るんだ!


 俺はエイル姉ちゃんを指差して、次にヒミンがいるベッドを指さした。

 そして言う。


「エーエ、バブゥー」


 エイル姉ちゃんは俺が言おうとしている事が判ったみたいで、驚きながらも言う。


「ト、トルムルは……、私にも命力絆ライフフォースボンドをしてくれるの?」


「バブゥー」


 そう言って俺は、力強くウール王女の右手を上げた。

 エイル姉ちゃんは困惑しながらも笑顔になっていく。


「ありがとう。

 本当にありがとうトルムル。


 これからも、美味しい離乳食をいっぱい作るからね」


 ヒミン王女は、驚きながらもエイル姉ちゃんと変わった。

 横になったエイル姉ちゃんは目を瞑る。


 神妙な顔で、微動だにもしていない。


 俺は再び、魔法力マジックパワーを使って、命力絆ライフフォースボンドの魔法をエイル姉ちゃんに発動した。


 しばらくしてエイル姉ちゃんが起き上がってくる。

 姉ちゃんは今までと感覚が違うのに気が付いて、喜びの顔付きに変わっていく。


「凄いわ!

 こんなに感覚が飛躍的に上がるなんて。


 ありがとう、トルムル。

 トルムルは、私を素晴らしい体に生まれ変わらせてくれたわ」


 そう言うとエイル姉ちゃんは、ウール王女の体に入っている俺を抱いてくれる。


 その、柔らかな胸で。

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