第4章

第50話 アトラ姉ちゃんの決意

 翌日、町で大騒ぎになっていると、例の常連のおばさんが店に来て教えてくれる。


「ミノタウルスが大挙して攻めてくるなんて、この国始まって以来らしいですわよ。

 それでも私達は勝ちましたのよ。


 なんと言っても、ミノタウルスに勝ったのは謎のハゲワシの出現でしょうか。

 目の前で見た人達の話によれば、圧倒的な火力で瞬時に魔石に変えていったとか。


 私の推測では〜〜〜〜」


 このあと、ハゲワシになりそうな候補者の名前を言って、その人の能力を説明をしていた。

 俺は、常連のおばさんの話よりもアトラ姉ちゃんが気になっている。


 アトラ姉ちゃんの心を俺は読める。

 だけれど、土足で姉ちゃんの心の中に入っていくのは好きではない。


 緊急時以外はしないと決めている。

 そうしないと、大賢者にはなれない気がしているからだ。


 あ……、またアトラ姉ちゃんが窓の外を見た。

 その方角は、前にいた国だ。


 もしかして、本当に美人のアトラ姉ちゃんに彼氏がいたのかもしれない。

 頻繁に窓の外を見ている。



「〜〜なのよね。

 それで、これは噂なんですけれど、ミノタウルスの防具を砕いたのは伝説の魔剣、超音波破壊剣ソニックウエーブディストラクションソードなんですって!


 信じられますか?

 あの、失われた伝説の魔剣ですよ。


 私は信じられませんね!

 なぜなら、魔剣に付与するスキルが判らないみたいですからね」


 もうすでに、魔剣の話が町で噂されているのには驚いた。

 翌日なのに、町中の人が知っている。


「そういえば、アトラさんの活躍を町の人達が言っていましたよ。

 学園の建物内にいたミノタウルスを、次から次へと一撃で倒していったと。


 アトラさん、それ本当ですの?」


 常連のおばさんは、真偽を確かめたくてアトラ姉ちゃんに質問をした。

 けれどアトラ姉ちゃんは、突然自分の名前が出たので少しビックリをする。


 そして、話を聞いていなかったみたいで、おばさんに何の話なのかを聞き返した。


「ええ、まあ……、本当のことです。

 母さんに、小さい時から鍛えられましたから」


 アトラ姉ちゃんは無愛想にそう言う。

 常連さんは、アトラ姉ちゃんの対応に少し機嫌を損ねたみたいだ。


 こ、ここは俺の出番だよな。

 アトラ姉ちゃんが何かを悩んでいるので、常連さんのご機嫌取りは俺がしないと……。


 常連さんの方を俺は向いて、思いっきり笑いながら両手を出す。


「バブゥブゥーーー」


 抱いて下さいと言う動作をした。

 すると、常連さんは俺に近付いて来て抱いてくれる。


「やっぱりトルムルちゃんは私が好きなのね。

 こんなに喜んでいるわ」


 そのあと常連さんは、お孫さんのためにパンティを2枚も買っていってくれた。

 なんだ〜〜、お孫さんのために買っていたのか〜〜。


 俺はてっきりおばさんが履くために、妖精の動くパンティを買っていたのかと思ったよ。


 アトラ姉ちゃんは常連さんが帰ると、心痛な面持ちで父ちゃんの方を向いて言う。


「父さん、そしてトルムル。

 聞いてもらいたい大事な話があるんだ」


 父ちゃんはミノタウルスの魔石から手を離す。

 付与師として、国から大量のミノタウルスの魔石を無料で配分されたのだ。


 これを店で売って、町の人達の武具の攻撃力を上げてほしいと。

 でもそれは表向きで、俺がほとんどミノタウルスを魔石に変えた。


 当然の権利として、俺が受け取るようにと王妃様から言われていたからだ。


 おっと、この話よりもアトラ姉ちゃんの話の方が重要だよな。


「実は、王子から別れ際にこう言われたんだ。


『アトラさんの怪我が治ったら是非戻って来てほしい。

 私のわがままかもしれないけれど……。


 どうやら私は、貴女のことを好きになったみたいだ。

 このまま貴女に会えないのであれば、私が王子の権利を捨ててもいいと思っている。


 令嬢方の貴女に対する仕打ちは、家臣の良識ある人から全て聞いた。

 私の地位しか興味のない令嬢方には、はっきり言って私はうんざりしている。


 貴女は優しくて、私に対して自然に接してくれた。

 今までそのように接してくれた女性は誰一人居なかった。


 少しだけ粗野なところがあるけれど、返って私には新鮮に映っていた。

 魔法剣士として、今まで修行をして来たためだと私は理解をしている。


 別れ際に、このような話をして大変申し訳ないと思っている。


 どうか私を王子としてではなく、1人の男として見てほしい。

 国元に帰ったらこのことを考えて、貴女の気持ちを私に教えて欲しい』


 王子は国境まで来て、私を見送ってくれたんだ。


 父さん、私……。

 もう一度、彼の居る国に行きたい。


 そして、私の気持ちを正直に打ち明けたいんだ。

 私も貴方のことが好きですと」


 ほ、本当に〜〜〜〜〜〜!

 王子様と相思相愛なの……?


 ワァオ〜〜〜〜〜〜!


 そ、それって、アトラ姉ちゃんは将来王妃様になるってことだよね。


 父ちゃんはアトラ姉ちゃんの話を聞くと、思った様に生きなさいと、後押しの言葉を姉ちゃんに送った。


 姉ちゃん、本当におめでとう。


 それに、新しく生まれ変わった姉ちゃんには、向かう所敵なしだ〜〜!!

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