第37話 幸せな日

 伝説の魔剣、超音波破壊剣ソニックウエーブディストラクションソードが復活した。


 アトラ姉ちゃんは、その日から本物の笑顔が戻った。

 翌日から毎日学園に行っている。


 妖麗なアングルボーサ教授に訓練してもらうためだ。

 同級生で親友、しかも同じ魔法剣士。


 これ以上の訓練相手はいないよね。


 エイル姉ちゃんが学園から帰って来るのが毎日遅くなった。

 アトラ姉ちゃんの訓練を、エイル姉ちゃんも一緒に受けている。


 それとヒミン王女も加わって、4人で秘密の猛特訓をしていると聞いた。

 ヒミン王女の許可を受けて、アングルボーサ教授には伝説の魔剣のことを言ったそうだ。


 ヒミン王女もビックリをしたみたいだ。

『さすがはトルムル様です』と言ったみたい。


 俺が伝説の魔剣を創ったので、アングルボーサ教授はもっと驚いたみたいだった。

 免疫がなかったのか、驚き方が凄かったらしい。


 一度は特訓を見てみたいよな。

 でも、邪魔になりそうだし……。


 その前に、俺はやらなければならない事が沢山ある。

 もちろん、大賢者の本を読まなければいけない。


 商品の開発もしなければ。

 今度は、ツルの様にドラゴンを飛ばす工夫をしている。


 折り紙でドラゴンを折る。

 でも、これがなかなか上手くいかない。


 折り紙の状態で、ある程度ドラゴンに似せたいからだ。

 妥協して父ちゃんに見せると、渋い顔をされた。


 商売に関しては、父ちゃんは妥協を許さない。

 父ちゃんを納得させない限りは商品化できないのだ!


 ウール王女は、相変わらず一日中何十回も俺を呼ぶ。

 それはそれで嬉しいのだけれど、時間が……。


 筋トレもしないといけない。

 お昼寝もしないと、乳歯に良くない。


 それに、ウール王女のように歩きたい。


 伝え歩きで、今も一人で歩く訓練をしている。

 アトラ姉ちゃんが頑張っているんだから、俺もと思う。


 でも……、頑張るレベルが違うけれど。

 でも仕方ないよな、俺赤ちゃんだし。


 イッタァーー。


 また転げてしまった。

 これで何回めだろうか?


 痛みがあるのは、防御魔法を取り除いてあるから。

 何故なら、痛みがないと進歩が遅いからだ!


 緊張しないと、いつまでたっても歩けない。

 しかし擦り傷も増えてきたし、これでやめようか……?


 でも……。


 アトラ姉ちゃんが、今でも死にものぐるいで頑張っている。

 アトラ姉ちゃんに、そうするように進めたのは俺だ。


 進めた本人が、擦り傷を作っただけでやめるわけにはいかないよな。

 よし、今度こそ歩くぞ!


 気合いを入れるためにオシャブリを吸う。


 まずは、捕まえている手を離す。


 いいぞ俺、何もなしで立っている。

 次が根性のいる所。


 一歩前足を出す。


 で、できた!

 マ、マジで!


 やっと一歩、歩けたよ俺!

 嬉しい。


 よし、もう一歩だ。




 イッタァーー。


 またまた転けてしまった。


 やめたいけれど、今日は歩ける気がする。

 一歩、確実に歩けたんだから。


 よし!

 もう一回オシャブリを吸う俺。


 気合いを入れて再び立つ。

 いいぞ、立てた。


 一歩踏み出す。

 いいぞ、できたぞ。


 もう一歩踏み出す。

 いいぞ俺、できたぞ。


 これで二歩できた。


 もう一歩踏み出す。

 いいぞ、できた〜。


 凄いよ俺〜〜!

 三歩も歩いている。


 4歩目はどうだ。


 イッタァーー。


 倒れている俺を、父ちゃんが俺を抱っこしてくれた。

 父ちゃんが近くにいるのに気が付かなかった……。


 それだけ集中していたということかな。


「トルムルが歩いたよ!

 三歩だけだけれど、歩けるようになった」


 そう言うと父ちゃんは俺に高い高いをしてくれる。

 何度も何度もしてくれる。


 最初は嬉しくて、笑いながら手足をバタバタさせていた。

 けれど、だんだんと気持ちが悪くなって……。


 父ちゃんは降ろしてくれて、もう一回歩くようにと言う。


 あれ?

 少し頭が回る?


 酔ってはいないので、これは高い高いのやり過ぎか……?


 父ちゃんが、前で俺があるき出すのを見ている。


 オシャブリを吸って、頭が回るのを抑える。

 少し収まってきた。


 父ちゃんが少し離れた場所で膝をついて待っている。

 俺は再び立った。


 そして、一歩目。

 成功だ!


 二歩目。

 いいぞ俺!


 三歩目。

 歩けるよ俺!


 4歩目。

 やった〜〜、さらに歩けた。


 5歩目。

 だ、だめだ〜〜、バランスが〜〜!


 父ちゃんがとっさに俺を受け止めてくれた。

 あ、ありがとう父ちゃん。


 また痛い思いするところだったよ。


「トルムルは4歩も歩けたよ」


「「ただいま〜〜」」


 エイル姉ちゃんとアトラ姉ちゃんが学園から帰って来た。

 二人とも、にこやかな笑顔だ。


「お帰りエイルにアトラ。

 今日は、素晴らしい事があったんだ」


「え、何?

 どうしたのお父さん」


 エイル姉ちゃんが興味のある声で言った。


「トルムルが、少しだけ歩けたんだ!」


 アトラ姉ちゃんとエイル姉ちゃんがさらに笑顔になった。


「よかったわねトルムル」


 そう言ったエイル姉ちゃんは、その柔らかな胸で俺を優しく抱いてくれた


「よかったな、トルムル」


 アトラ姉ちゃんもその大きな胸で、優しく抱いてくれる。

 家族みんなが、幸せに思った日になった。

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