第36話 嬉し涙
機が熟したので、俺は父ちゃんに言う。
「トート、そ〜」
俺はそう言うと、ギガコウモリの入っている引き出しを指さした。
父ちゃんが不思議そうに俺を見る。
「トルムルは、これで何をするんだい?」
さっきまで読んでいた本の、
「こー」
父ちゃんがそれを見ると、突然仰け反った。
「ト、トルムルは。も、もしかして……?
で、伝説の
「とー」
「し、信じられない!
……、そうか。
それを売るのかい?」
アトラ姉ちゃんも会話を聞いている。
今こそ言うべきだと俺は判断した。
「アーア、のー」
アトラ姉ちゃんは、息をしていないのかと思うほど固まってしまった。
そして、瞬きを高速で繰り返した。
アトラ姉ちゃんは少し落ち着くと言い始める。
「わ、私が……。
その伝説の
でも、腕が……」
俺は、アトラ姉ちゃんがケガをしている方の腕を指さして言う。
「ブー」
そして、
「バブゥー」
「トルムルは、ケガをしていない方の腕で、この伝説の魔剣を持てと言うんだね」
「とう」
アトラ姉ちゃんは、しばらく考えた。
そして、真剣な眼差しで俺をみて言う。
「まさか……、こんな展開になるとは夢にも思わなかったよ。
けれど、努力すればできるよな!」
「バブゥー」
そう言って俺は、再び手を上げた。
アトラ姉ちゃんの目が輝き始める
「そうか、そうだよな!
腕は二本あるんだから、もう一本の腕で剣を持てばいいんだよ。
どうして今まで気が付かなかったんだろう?
トルムル、宜しく頼む」
アトラ姉ちゃんはそう言うと頭を下げた。
姉ちゃん……。
俺に頭を下げなくてもいいのに……。
父ちゃんからギガコウモリの魔石を受け取る。
今回は大事なスキル付与。
アトラ姉ちゃんの将来がかかっている。
俺はオシャブリを吸って精神を統一をする。
父ちゃんとアトラ姉ちゃんが真剣に見ている。
手の中でイメージを開始した。
イメージが完了したので、魔石に付与する。
シューーーー。
静かな音と共に、スキルが魔石に入っていく音が聞こえた。
すぐに検査の魔法を使う。
大丈夫だ!
安定して魔石の中に、
すぐに父ちゃんに渡した。
父ちゃんは慎重に検査をしている。
少し手が震えているのがわかる……。
これほど緊張している父ちゃんを始めて見た。
伝説の魔剣が復活する瞬間だからか……。
「大丈夫だ!
安定して
成功だトルムル!」
やったね、俺!
アトラ姉ちゃんに笑顔が戻った。
本物の笑顔だ!
「今でも信じられない。
ま、まさか、私が伝説の魔剣を持つことになるとは!
ありがとうトルムル。
本当にありがとう」
アトラ姉ちゃんの目から、涙が溢れ落ちている。
嬉し涙だ!
あれ?
姉ちゃんがよく見えない……?
気が付いたら、俺も涙を流していた。
「ただいま〜。
……?
ど、どうしたの、み、みんな?
涙を流して……。
だ、誰かが亡くなったの?」
父ちゃんも涙を流している。
母ちゃんの葬式以来だ。
「トルムルが成功したんだ。
エイル、これを見てごらん」
そう言うとギガコウモリの魔石を見せた。
「それはギガコウモリの魔石。
成功したって……?
ま、まさか……?」
「伝説の
これをアトラが持つことになって、みんなで喜んでいる所だったんだよ」
エイル姉ちゃんは驚いて俺を見る。
「本当に?
伝説の
凄いことだわ、これは!
この剣はすでに伝説になっていて、誰も復活できないと教科書に書かれてあったわ。
それが復活したなんて、とても信じられない!」
アトラ姉ちゃんがエイル姉ちゃんに言う。
「エイル、悪いんだけれど。同級生だったアングルボーサにことづけを頼む。
明日の授業が終わって会いたいと」
えーと、確かその名前は……?
あ〜〜〜〜!
妖麗な女性の魔法剣士、アングルボーサ教授だ!
そうか。
同じ魔法剣士で同級生。
しかも、学園の教授だ。
アトラ姉ちゃんと同級生だったとは知らなかったよ。
アングルボーサ教授に相談するんだね。
間違いなくこれでアトラ姉ちゃんが復活する。
やった〜〜〜〜!!
アトラ姉ちゃんが俺を抱き上げてくれて言う。
「トルムル、本当にありがとう」
そう言って姉ちゃんはその大きな胸で、俺を優しく抱いてくれる。
とっても嬉しく、穏やかな時間が過ぎたのだった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます