第31話 魔石採取

 今日は、エイル姉ちゃんが通っている学園の休みの日。

 家族4人で魔石採取に行く。


 の予定だったけれど、エイル姉ちゃんがヒミン王女に話したら一緒に行きたいと。


 そして、さらに……。

 ウール王女も行くことになった。


 な、何でウール王女まで?


 トルムルが行くのなら、私も行きたいと駄々をこねたらしい。

 俺が行くのを、どうやって知ったか分からないけど……。


 た、……たぶん。

 ウール王女のよく聞こえる耳で、遠くの会話を聞いたのだろう。


 恐るべき、ウール王女の聴覚。



 今回は、パンティとかツルの折り紙に織り込む小さな魔石採取が目的だ。

 魔物は岩蜂ストーンビィーで、集団で襲ってくる厄介な魔物。


 大きな岩に唾液で溶かして穴をあけ、その中に住んでいる。

 ハンマーで岩を叩くと、大挙して外に出てくる。


 火炎魔法に弱いので、ある程度の魔法を使えれば問題ないと父ちゃんが言っている。

 商売のために必要で、年に数度採取してる。


 家の外に出られるので、これはいい機会だ。

 なぜなら、超音波の破壊魔法を試したい。


 魔石にそのスキルを付与する。

 そして、アトラ姉ちゃんの剣に組み込みたかった。


 イメージだけでスキルを付与しても、実際にどのくらいの破壊力があるのか分からない。


 家で試すわけにはいかないので……。




 え……?


 アトラ姉ちゃんが、大きなハンマーを担いでいる……?

 怪我をしているのに、だ、大丈夫なの?


「アトラ、それは重いから父さんが持つよ」


「利き腕でなければ大丈夫だよ、父さん。

 これぐらいのハンマーだったら、片手でも大丈夫だから」


 そう言うとアトラ姉ちゃんは、ハンマーを振り回し始めた。

 思わず姉ちゃんを凝視して、固まってしまう俺。


 やっぱり凄いよ、アトラ姉ちゃんは。

 俺の10倍の重さがありそうなハンマーを、片手で軽々と振り回している。


 それも、利き腕ではない方で。


 新生児の時、アトラ姉ちゃんに思いっきり抱かれ、息ができなくて死にそうになった事があった。

 恐怖心が再び襲ってくる俺……。


 もしかしたら、身体中の骨が折れていたかも……?


 オシャブリを吸う。

 やはり、精神安定にはオシャブリが1番だ。



 皮の防具に加えて、今回は帽子をかぶる。

 縁が大きくて、そこから小さな目の網が地面まで届いている。


 岩蜂ストーンビィーが襲ってくると、唾液で皮膚が焼けただれるのでその予防だ。

 数がハンパないから、全てを火炎魔法で殺すのは難しいみたい。


 生まれて初めて岩蜂ストーンビィーが見れるので、ゴブリンの時のように興奮している俺。

 でも、今回は俺の出番はなさそう。


 出番がなくても、岩を目標にして超音波の魔法を発動したい。

 アトラ姉ちゃんのために!




 待ち合わせの場所には、ヒミン王女とウール王女が待っていた。

 そして、影から見守るようにラーズスヴィーズルと……、もう1人?


 あ、そうか。

 王女が2人だから警護を増やしたんだ。


 納得納得。



「トームル、トームル。

 おーよー」


 元気のいい声はウール王女だ。

 そしてウール王女は、お早うと言った。


 さらに、言える言葉が増えている。


「ウー、お〜。

 お〜……」


 だ、だめだ。

 おはようが言えない。


 お、落ち込みそう……。



「お早うございます。

 ドールグスヴァリさん、アトラさん、エイル、そしてトルムル様


 アトラさん、その腕どうなされたのですか?」


「お久しぶり、ヒミン。

 ま、色々あってね……。


 この子がウール王女なんだね。

 凄く可愛いね。


 ま、今日はよろしく頼むよ」


「あ、はい。

 その重いハンマーを、片手だけでそのように振り回しているのは凄いですね」


「あ、これね。

 これ、軽いから大丈夫。


 利き腕の方だった、もっと重い物も振り回せるんだけれど……」


 あのハンマーが、か、軽い……?

 嘘……、マジで!


 どれだけ凄いんだ、アトラ姉ちゃん。


 その腕で剣を持って修行をすれば、思っていた以上に早く魔法剣士として復活できるかも。

 元のようにはなれないけれど、普通に強い魔法剣士になれるよ。


 アトラ姉ちゃん復活のためには、超音波の魔法を発動しなくては。

 そして、ギガコウモリの魔石にスキルを付与するんだ。


 アトラ姉ちゃんのために、頑張るぞ〜〜!




 町から離れた草原まで歩いて来た。

 でも、俺とウール王女はおんぶ紐で、父ちゃんとヒミン王女におわれている。


 ウール王女はすでに歩けるけれど、大人の歩く速さにはまだなっていないみたい。

 俺は……、まだ一人で歩けない。


 伝え歩きを今はしている。

 一人で歩くには、赤ちゃんの頭が大きいので不安定だ。


 筋トレを毎日しても、未だに歩けない。


 ウール王女に完全に負けている俺。

 あ、でも……。


 ウール王女を早く歩けるようにしたのは……。

 俺……?


 ……だったと思い出した。


 なんか……、複雑な気分……。

 でも、ウール王女は超可愛いから、いいか。




「みんなついたよ。

 悪いけれど、岩蜂ストーンビィーの巣をみんなで手分けして探して欲しい。

 出来るだけ大きな岩の方が、沢山いるから宜しく頼むよ」


 みんな返事をすると、それぞれ居そうな方向に探しに行った。

 おんぶ紐から解放されて、普通に俺を抱いてくれる父ちゃん。


「トルムルも探してくれよ〜。

 父さんよりも、遠くを見るのが得意そうだからね」


「バブゥー」


 俺はそう言って右手を上げ返事をする。


 小高い丘を見ると、いくつもの大きな岩が見える。


「トート、むー」


 俺は、小高い丘を指差した。


「むー?

 もしかして、向こうって意味なのかいトルムル?」


「とう」


「よし、行こう。

 向こうの小高い丘の方なんだね」


「バブゥー」


 しかし、魔法で視力を上げすぎたので、歩くにはまだずっと先にある。


 やっと着くと、予想以上に大きな岩がゴロゴロしている。


「ほう、この辺りは初めて来たけれど、大きな岩が沢山あるよ。

 ありがとう、トルムル」


 その中でも、家の半分ぐらいの大きな岩があった。

 岩には、無数の穴があいている。


「凄いぞトルムル。

 今まで見つけた中では、一番大きな岩蜂ストーンビィーの巣だ。


 みんなを呼ぼう」


 そう言うと

 父ちゃんは大きな声でみんなを呼んだ。


 最初に反応したのはウール王女みたい。

 こんなに遠くでも聞こえるって、スゴ!


 みんなが来ると、さっそく準備に取り掛かる。

 準備が出来ると、アトラ姉ちゃんが岩蜂ストーンビィーの巣をハンマーで叩く予定だ。


 これだけ大きな岩。

 きっと、大挙して中から岩蜂ストーンビィーが出てくるだろう。


 みんなを見ると、緊張と期待の感情を全身で表している。


 いよいよ、岩蜂ストーンビィー退治が始まる!


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