第27話 大賢者の本

 ヒミン王女は、目を輝かせながら続きを話す。


「トルムル様から命力絆ライフフォースボンドを受けた人達は、離れた場所でもトルムル様の心が来て下さると思われます。

 そして、その膨大な魔力と知識で、窮地を救ってくださるのです。


 つまり、トルムル様に命力絆ライフフォースボンドを受けた人達は、常に心で繋がっている事を意味します」


 窮地を救うって……、俺のことを過大評価しすぎると思うんだけれど。

 魔王の下の下の下であるギガコウモリ戦では、俺が捕まった可能性があったのに……。


 でも……、心で繋がっていると、いざという時にはいいかもしれない。

 俺は、ウール王女の考えていることが分かるからな。


 待てよ。

 俺の考えていることが、ウール王女に分かるのだろうか?


 試しに、考えている事を心の中で言ってみよう。


『ウール王女、俺の声が聞こえたら返事してくれ』


 ……?

 返事がない。


 話しかけるように言ってみてはどうだ?


 『ウール王女、俺の声が聞こえたら返事してくれ』


『トームル、トームル!』


 話しかけた言葉に反応した!

 そして俺の呼びかけに、ウール王女がとても喜んでいるのが分かる。


 それにしても、ウール王女の体は凄い!

 遠くにいる小さな虫の動く音が聞こえる。


 それに、この部屋のカビ臭い匂いの中に、王妃様とヒミン王女の香水の香りの違いが、ここにいてもハッキリと分かるほどだ。


 視覚は、俺と同じか……?

 ウール王女の手足の運動能力がずば抜けている。


 手足が空気でできているみたいに軽く動く。

 これだと……、すでに歩いているのかも知れない。


 オッと!

 下から、みんなが呼んでいる。


 ウール王女の体を、元いた王妃様の所に重力魔法を使ってユックリと戻して行く。

 そして、王妃様がウール王妃をシッカリと抱き留めたのを確認すると、元の体に意識を戻した。


「バブゥー」


 元の体に戻ると、俺はそう言う。


「やっと、トルムルの心が戻ったよ!

 ふ〜〜。


 一時はどうなるかと、とても心配したんだよ。

 トルムルには、驚かされることばかりだ。


 そうだ。

 この本を読みたいために、トルムルは本棚の上に飛んだんだよね?」


「バブゥー」


「やはりそうか。

 それで、この本はなんだい。


 本を開こうとしても、開かないのだけれど?」


 え!

 本が開かない……?


 何で?


 王妃様が驚きの目で本を見ながら言う。


「閲覧禁止のこの部屋の中では、一風変わった本なのです。

 本なのに、どうやっても開くことができないのです。


 それに、作者の名前も書いていないですし、何について書かれたのかも表紙に書かれてはいません。


 それなのに、どうしてそれをトルムルちゃんが選んだのか……。

 もしかして、大賢者様が書かれた本なのですか?」


 それは、これから調べてみないと分からないんだよね。

 両手のひらを天井に向けて、エイル姉ちゃんを見る。


「えーと、トルムルにも、それは分からないと言っています。

 トルムルは、その本をどうしたいの?」


 みんなが俺を見ている。


 とりあえずは、その本を手元に寄せて見ないことには始まりません。

 重力魔法で手元に持って来て、本に手を触れる。


 すると、突然変化が起こり始めた。

 先ほどまで薄ぼんやりと光っていたのが、まばゆい光と共に最初のページが開かれた。


 まばゆい光が収まって来ると、文字がゆっくりと現れ始める。


『妖精の国は、最も近くて、最も遠い所にある』


 その文字の下には、大賢者の名前が書かれてあった。


 妖精の国?

 えーと……?


 妖精の国に行きなさいってことなの?


 しかし謎めいた言葉なので、妖精の国がどこにあるのか具体的には分からない。

 近くて、遠い所?


 みんなが覗き込むように本に書かれた文を読んでいる。


「これは……、どう言う意味でしょうか?

 大賢者の名前と、この謎めいた文しか書かれていないのですが」


 父ちゃんが、みんなに疑問をなげかた。

 すぐに王妃様が父ちゃんの質問に答える。


「伝説の大賢者様は,仲間たちとヒドラの妖精と共と当時の世界を救いました。

 トルムルちゃんがこの本に反応したのは、明らかに彼がそうするように仕向けたと思われます。


 一定以上の魔力がないと開けられないような、そんな魔法を掛けたのだと。

 しかし、その文は謎めいていて、私には分からないです」


「そうすると大賢者は、トルムルに妖精の国に行くように指示をしていると言う事ですか?」


「それは間違いはないと思います。

 それにご存知のように、妖精を見れるのは幼い子供だけ。


 しかも、妖精の国がどこにあるのかを知っている人は、誰もいないのです」


 知っている人が誰もいないってことは、自分で探さなければならないってことだよね。

 それに大賢者の指示が、あまりにも謎めいている。


 どう考えていいのかサッパリ分からない。

 そもそも、俺にその資格さえあるのだろうか?


 でも、ヒドラと友達になれたらどんなに素晴らしいだろうか。

 考えただけでもワクワクしてくる。


 次のページを開こうとしても、開くことができなかった。

 妖精の国に行かないと、やはり次のページが開かないのだと直感する。

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