第19話 広域治癒魔法

「エイル達も手伝いに来てくれたんだね」


 後ろからヒミン王女が声を掛けてきた。

 王女は大量の包帯を抱えている。


 彼女が無事なので一安心。

 しかし……、泣いていた跡が……ある。


 エイル姉ちゃんも気が付いたようで、ヒミン王女に聞く。


「どうしたのヒミン?

 泣いていたのが分かるわよ」


「それが……。

 妹が大怪我をして意識が無いの。


 治療師の話だと、血が大量に失われたために命の危険があると。

 もはや、運を天に任すしかないそうなの。


 さっきまで私は泣いていたのですが、皆さんの為に少しでもお役に立てるようにと……。

 そうでもしないと、ずっと泣いていそうで……」


 それマジ!

 俺と同じ誕生日の王女だよね。


 ヒミン王女の妹で、まだ一度もあったことがない。

 けれど、やけに気になり始める俺。


 でもその前に、ここの怪我人をなんとかしなくては。


 俺は心から、ここにいる怪我人を治したいと強く思った。


 両手で卵を持つようにした。

 そして、その中に怪我をしたこの部屋の怪我人を全て直すためのイメージを開始。


 傷を塞いで骨折も治し、異物を体から抜いて治療。

 ありとあらゆる想定をイメージして、体の中にある魔法を全て使って俺は魔法力マジックパワーを使って治癒魔法を発動する。


 両手を広げていくと、手から光り輝く金粉が大量に溢れ出してきた。

 部屋中に金粉が充満していくと、怪我人の所に集まっていく。


 そして金粉は、怪我人の体の中に静かに入っていった。


 部屋の中では、大きなどよめきが起こり始めていた。


「い、痛みがなくなった。

 この、金粉が痛みを……」


「手の骨折が治ったよ。

 この金粉を出してくれた人は誰なんだ?」


「木の破片が抜けて、完治しているわ。

 お礼を言いたいのだけれど……」


「僕、もう痛くなくなったよ、お母さん」


 人々は、金粉が出始めた場所に居たヒミン王女を見ている。


「ヒミングレーヴァ王女が、私達に治癒の魔法を?」


 誰かがそう言うと、礼を言いたい大勢の人達がヒミン王女の周りに集まって来ている。

 ヒミン王女は、俺を驚きの目で見た。


「「「「「ヒミングレーヴァ王女、ありがとうございました」」」」」


 集まった人達は、ヒミン王女にお礼を言った。


 実際に、治癒の魔法を使ったのは俺だった。

 けれど、それを彼女は言わなかった。


 手柄を横取りにするという低次元な考えでなく、俺の事を考えてくれたのが分かった。

 何という心の広さだろうか。


 ヒミン王女は人々に笑顔で応えていた。

 上に立つ者の、思慮の深さに俺は感動した。



 少しすると、部屋が落ちついてきた。

 ヒミン王女は、俺達を部屋の外に出てくれるように頼んだ。


 外に出ると、歩きながらヒミン王女が言う。


「トルムルちゃんが、さっきの治療をしたんだよね?」


「バブゥー」


 俺はそうだよと返事をして、右手を上げた。


「本当に驚き!

 トルムルちゃんが、広域治癒魔法ゴールデンパウダーを使うなんて!


 金粉が部屋中に満ちた時は、神の奇跡かと思ったほどだったわ。

 トルムルちゃんにお願いがあるのだけれど……、妹を見てくれないかしら?」


 え……。

 俺がヒミン王女の妹さんを。


 それは気にはなっていたけれど、俺の体内にあった魔法は空っぽ。

 行っても、何の役にも立てないんだけれど?


 俺は自分を指差して言う。


「ナーナ」


「ナーナ?

 えーと、トルムルちゃんの言っている意味が分からないのですが」


 エイル姉ちゃんは少しだけ考えて言う。


「さっきの魔法で、体内の魔法が無くなったと言いたいの、トルムルは?」


 さすがエイル姉ちゃん。

 俺の言いたいことが、一発で分かるみたい。


「バブゥー」


 俺そう言って右手を上げた。

 ヒミン王女はそれを聞いて、肩を落とす。


「トルムルちゃんは、大勢の治療に全ての魔法を使われたのですね。

 ごめんなんなさいね、無理なお願いをしようとして」


「そうだ!

 まだ手はあるよ!」


 父ちゃんが、何かを閃いたみたいだ。

 でも、何を?


 父ちゃんは、持って来たダイアモンドを取り出した。


「昨日、このダイアモンドにトルムルの魔法を入れたばかり。

 ほとんど満タンになっているので、これを使えば良いよ」


 あ、そうか。

 その手があったんだ。


 ヒミン王女は目を輝かせながら俺に言う。


「トルムルちゃん、それでお願いできますか?」


 もちろんと言いたいけれど、自信がない。

 さっきの人達は、どちらかと言うと命の危険は無かった。


 でも、ヒミン王女の妹さんは、専門の治癒師でも運を天に任すしかないという状態。

 俺にできるだろうか……?


 でも、やらないと亡くなってしまう恐れがある。


 確か……、血が多く失われたって言っていたよな。

 とすると、輸血?


 でも、輸血なんてドラマでしか見た事なしいし。

 知識がないのに危険な気がする。


 生理食塩水?

 これだと、大量に体に入れなければ問題ないはず。


 血は少し薄まるけれども、血圧は上がる。

 怪我の箇所は魔法で直しているだろうし……。


 ほんの少しずつ入れて、様子を見る。

 魔法で、体を活性化させる。


 俺みたいに、視力が良くなりすぎるかもしれないけれど……?



 また、母ちゃんの言葉を思い出した。


『治癒魔法には関して必要なのは、その人を助けたいと思う心が大事です。


 そのあとは、精神を集中して細心の注意を払う。

 なおかつ、思い切ってやる事で、その人の命が助かるのです』


 母ちゃん、俺やってみるよ。

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