15.野生の勇者が襲ってきた(笑)
「さあ、シンシア。よく見ておけ。アレが野生の勇者だっ!」
「はい先生!」
俺はのじゃロリを構えて飛鳥の前に立つ。
『のじゃ、野生の勇者……ぷぷぷ、笑えるのじゃ、爆笑なのじゃ。諸刃はギャグのセンスがあるのじゃ』
「そん褒めるなよ」
のじゃロリがケタケタと笑う。壊れた呪い人形のように気味が悪かったが、まあいいだろう。いつものことだ。
だけど周りはそうでもなかった。ザッという音が後ろから聞こえて来たので振り向くと、シンシアが一歩下がって距離を取っていた。
「こ、怖い……」
のじゃロリのせいでシンシアに怖がられたっ! だけどそれだけじゃない。ザッという音が聞こえたので、再び正面を向くと、飛鳥が一歩下がっていた。
「き、きもい……」
「それはそれで傷つくんですけどっ!」
飛鳥が何かばっちいものを見る目をしていた。心がえぐれそうな気持ちになる。俺ってそんな気持ち悪いのだろうか。でも飛鳥が言っているのはのじゃロリのことだろう。
「精神攻撃はつらいが、やってやろうじゃねぇか飛鳥っ」
「っふ、今の私は勇者よ。私の訓練相手になってぎゃふんと言いなさいっ!」
飛鳥の攻撃は割と直線的だ。だが、連撃が上手い。攻撃力はないが素早い連続攻撃で小さなダメージを蓄積させていくスタイルだ。だけど本物の鬼と比べれはまだ弱い。まあ一般人向けの技だからな。
「隙ありっ! だよ」
「ちょ、まっ」
飛鳥が攻撃に魔法を織り交ぜてきた。俺はとっさに避ける。避けた後で思った。俺、魔法効かないんだけどな……。
なので、飛鳥が連撃の間に仕込んでくる魔法を全無視して突っ込んだ。
「あ、諸刃に魔法が効かないんだった」
「逆に隙あり、だな」
俺は飛鳥の隙をついてのじゃロリを振るったが、飛鳥が急にしおらしい顔つきになったので俺は寸前のところで留めてしまう。
そんな俺を馬鹿にしたような、にやりとした笑みを浮かべて、飛鳥が剣を振るった。
俺はとっさにのじゃロリの鞘でガードする。
『のじゃあぁぁぁぁぁぁぁ、それで攻撃を受けられると刺激が強すぎるのじゃぁぁぁぁぁぁ』
「のじゃロリっ! お前の言葉に悪意を感じるんだがっ!」
またしても後ろから、ザっと遠ざかる音が聞こえる。またシンシアが引いたんだな。
「へ、変態……」
ぼそりと聞こえるその言葉に、俺はさらに傷つく。体は一切傷つかないのに、心だけがえぐれていく。シンシアに変態と言われて傷ついたのも本当だが、さらに傷ついたのは、飛鳥の表情だった。
「うわぁ……」
その視線はまるでゴミを見る目のようで、俺のメンタルががりがりと削られていくのを感じた。
「速攻で決めるっ」
このメンタルに来るダメージがきついので、野生の勇者(笑)をさっさと討伐することに決める。討伐と言っても、幼馴染なので、負かすだけなんだけど、これはそう、そういう気分なのだ。断じて、かっこいいところを見せて変態と思われているこの状況を何とかしたいとかそういうことじゃない。
「行くぞ、鬼月流火の型二式……重火斬っ」
のじゃロリの先端を掴み。前に振り下ろす力とは逆の方向に引っ張り力を溜め、掴んでいた先端を放すことで、強烈な一撃が相手を襲う技。力を溜めて攻撃する分、少し隙ができてしまうがそれなりに重たい一撃を相手に食らわせることが出来る。
俺が声に出して技名を言ったのだ。どんな技かは分からないが、俺の動きを見てどのような攻撃が来るのか悟った飛鳥は、剣を構えて受け止めようとする。
だけどそれが不味かった。
俺が放った一撃は、飛鳥が受け止められる力量をはるかに超えていた。それもそこまで本気で技を出していないので、飛鳥ごと切り裂く、なんてことは起きなかったが、それでも膝をつかせるぐらいのことは出来た。
飛鳥は悔しそうに剣を地面に置き、両手を上げる。
「降参よ。さすが諸刃だわ」
俺はそんな飛鳥を無視して、シンシアの前に立つ。
「これが剣術での戦い方だ。あいつは魔法も織り交ぜていた。魔法を使えるなら飛鳥のような戦い方が一番いいかもしれないな」
先生をイメージしてシンシアに丁寧に教えていると飛鳥が文句を言ってきた。まあ、降参と言ったけどその後無視したからな。少しだけ可哀そうだったかもしれないけど、ぶっちゃけ今は授業中なんだよな、一応。ぶっちゃけ日本の学校と授業の進め方が違うから分かりにくいけどな。まあ、飛鳥がいい教材になってくれたので非常に助かってはいるが……。
「なんか、ものとして扱われているような気がする……」
飛鳥さんがなんか鋭い。まあ、あれはアレで放っておいていいだろう。
「あ、あの……先生」
「どうした?」
「凄すぎてよく分かりませんでした。後、なぜか先生が変態に見えて集中できませんでした」
俺はのじゃロリに八つ当たりしたい気持ちをぐっとこらえる。のじゃロリが余計なことを言ったりするから変に思われる。正直イラっとするときが多いけど、コイツって結構優秀な刀なんだよな。手入れは適当でいいし、気になるところがあれば言ってくれる。使っても切れ味が落ちず、いつも万全の状態で使える包丁……いや違った。けどまあ、優れた刀であることに変わりはない。
「一つ言っておくことがある。俺は変態じゃない」
「そ、それは分かるんですけど、なんでしょうね。どうしてもその、あの……」
言い淀むその気持ちはわかる。俺はいつも周りから誤解されて生きてきた。特にのじゃロリやリセ、イリーナのせいでロリコンだって言われたりなんなりもした。でもそこを気にしたところで現状が変わるわけでもないので置いておくことにする。俺のメンタルが少し削れるだけだ。
「変態の部分は置いておくとして、すごすぎて見えなかったと言っていたけど大丈夫だ。何をやっているかは説明するし、ちゃんと訓練すればこれぐらいはどうにでもなる。心配しなくてもいい」
「ですが、私にできるのでしょうか。魔法なら自信があるので魔法特化でもいい気が……」
「あそこで転がっている飛鳥と俺の戦いを見ただろう」
「そういえば、先生に魔法が通じてなかった」
「俺は魔法無効化体質だ。正確に言えば、魔法への抵抗力が高すぎてほとんどの魔法を無効化してしまうって感じかな。世の中には俺みたいなやつだって普通にいるんだ。戦うすべを一つだけにしておくのはある意味で危険なんだよ」
「そう言った敵と遭遇した時に、敵を倒せるよう訓練するんですね。そしてピンチになったミーさんの目の前で敵を横取りして、ドヤ顔しながら、こんなのも倒せないなら私のそばから離れるんじゃないわよと馬鹿にした感じで言うんですね。悪役っぽいですっ」
「いや、違う。訓練の内容もそうだけど、悪役のも違う。それ、ピンチの時に駆け付けるヒーローになってるからね」
「え?」
シンシアは不思議そうに首を傾げる。何か間違ったことを言ってしまったのかと悩んでいるようだ。
確かに間違ったことを言っていたけどね。シンシアがイメージしているシチュエーションはどう見たってヒーロー的何かだろう。何だよ、ピンチの時に駆け付けて、目の前で敵を倒すって……どこぞのヒーローだよ。もう悪役でも何でもない。ただのいい人。
それに、戦って勝つことだけが重要じゃない。戦いにおいて一番大切なことは……。
「まずは逃げることから始める。闘いにおいて一番大切なのは……死なないことだ」
「し、死なないことですか」
闘いで命を落とす危険をおろそかにすることは一番やってはいけないことだ。今度実践演習があるというし、まずは動けるようにするところから始めようかな。
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