2.依頼内容が意味不明な件
俺たちは仕事を探すために冒険者ギルドにやってきた。
「相変わらずにぎやかだな」
「なのに誰も構ってくれない寂しいところよ。私のことを構ってくれたのは諸刃だけ……」
「寂しいこと言うなよ。テンション下がるだろ。今日は良い感じの仕事を探すんだからな!」
俺はリセとイリーナを連れて、仕事を探す。周りからひそひそと声が聞こえてくるが、気にしないことに……。
「あのロリコンやべぇな。見ろよ、あんな子ども連れてるぞ」
「きっと夜のお供にするつもりなんだわ。あの変態。死ねばいいのに」
「ちょ。あそこにいるのリセじゃない。きっとあの男も夜が寂しくて女を引っ掛けまわして、純粋無垢な少女を埒ったんだわ。憲兵に連絡しなきゃ」
……周りの声は気にしないようにしよう。それがいい。
聞こえてくる言われない罪に胃が痛むのを感じる。どちらかと言えば、俺がこの二人に付きまとわれているんだけど。あと夜のお供ってなんだよ。だめだ、一度気になってしまうと、それしか考えられない。
今はお店のことに集中したいのに。そう、お店、お店を立て直さなければ。
俺は適当に依頼表を手に取った。何も見ずにとったのでとりあえず内容を確認することにする。
「えっと……学園の臨時講師?」
書かれていた依頼内容は、とあるお貴族様な学園の臨時講師の仕事だった。特にとある公爵令嬢の面倒を見てほしいというもの。そしてその依頼の金額が…………べらぼうに高かった。
こんな高い仕事がなんで残っているんだろうか。ほかのがめつい冒険者なら真っ先にやりそうなのに。学園で教える仕事、魔物とか魔王軍幹部との戦闘とか、そんな危険な行為ではない。命の危険がない、安全な仕事だ。あれかな、たまたま張り出されただけかな。とりあえずこれを受けることにしよう。
俺たちはその仕事の依頼表を持って受付に行った。
「えぇ!? 本当にこの依頼を受けるのですか」
受付嬢は驚愕した表情を浮かべる。それと同時に胸の奥底から不安がひょっこり顔出した。何だろう、変な依頼でもつかまされてしまったのだろうか。
例えば、面倒を見なければならない公爵令嬢がとても高飛車なあれだとか、傲慢ちんちくりんだとか、はたまた悪役令嬢だとか……。いや、悪役令嬢はゲームや物語に使われる用語だ。ごく普通のご令嬢を悪役呼ばわりするなんてひどい話はないだろう。
となると……やっぱりどうしようもない残念なご令嬢なのだろうか。
「もしかして、何か問題でもあるんですか」
思わず受付嬢に聞いてしまった。
「えっと、もしかしてご存じないんですか。この学園とご令嬢のことを」
「えっと、その……あまりそういうの詳しくなくて」
「でしたら教えてあげますが、私が言ったと郊外しないでくださいね。なにが起こるか分からないので」
俺はいったい何を聞かされるのだろうか。
「まず学園のことですね。依頼場所の学園とは、聖ギトギトセアブラ学園と言う各国のご子息ご令嬢、はたまた王族や皇族まで集まるとてもすごい学園なんです。お偉いさんがいますからね、いろいろと気遣わなければいけないんですよ」
なんだろう、とてもおいしそうな学園に聞こえた。そういえば、近所にある次郎系ラーメンのお店がとてもおいしかったということを思い出した。
あそこの脂ギトギトな豚骨ラーメンの野菜マシマシにニンニクその他ゼンマシで、トッピングに大きなチャーシューを乗せるのが最高だった。
「ちなみに、聖ギトギトセアブラ学園のあるイエケイラーメン公国はラーメンの聖地ともいわれています。多種多様なラーメンが販売されているラーメンの激戦区。しかもメンマ聖林にはラーメンに使う食材が豊富に取れますからね。行ったらぜひラーメンを食べることをお勧めします。ちなみに、名産はイエケイラーメン公国が誇るメンマ! これはヤバ過ぎる美味しさですよ。ぜひ、お勧めです、ふんすー」
鼻息を荒くしてラーメンについて熱く語る受付嬢にちょっぴり引いた。
にしてもメンマの聖地、メンマ聖林か……。名前的に森か林か……。きっと陸地だろうし、意外と魚介系スープで戦ってみればいい勝負ばできるのではないだろうか。
受付嬢がラーメンのことばかり語るため、思考がだんだんラーメンの方向によって行く。
ああ、なんかラーメン食べたくなってきた。
「ーーてなわけで、イエケイラーメン公国は素晴らしいところなのです。そんなラーメンの聖地にあるお貴族様の学園で臨時講師をしていただきたいという依頼なのです。いやー場所は素晴らしいですよね、場所は……」
「その、場所だけしかいいことないようにしか聞こえないんですが……」
思ったことを口にすると、受付嬢が遠い目をする。ふっと、息を吐き、濁った眼でこちらを見つめた。
いったいこの依頼にはどんな闇があるのだろうか。
「そして、ここに記載されているご令嬢なんですが……ちょっと特殊なご令嬢なんです」
人差し指をたてながら雰囲気を漂わせる受付嬢を見て、生唾を飲む。
「実は面倒を見ていただきたいご令嬢が、なんと悪役令嬢なんですよ」
「…………は?」
「いえ、正確には悪役令嬢を目指しているとかなんとか」
「いやいやいや、悪役令嬢って何ですか。意味が分からない」
「それはそうですよね。皆さんそう言います」
悪役令嬢って、乙女ゲームで主人公のライバルとして登場するキャラクターのことだよな。物語として悪役だと言われるならまだしも、悪役令嬢という二つ名を持つ令嬢って……マジで何?
「正確には悪役令嬢を目指しているとてもやさしいご令嬢なんですよ?」
「もっと意味が分からなくなってきました」
「私もよく分からないんですが、このご令嬢が熱心なアルフィス教の信者なんです」
「アルフィス教?」
俺はそこまで宗教に詳しくないが……。キリスト教はイスラム教と同じようなモノなのだろうか。
「あら、ご存じないですか。アルフィス教」
「すいません、できれば教えてほしい」
「仕方ないですね。アルフィス教とはーー」
受付嬢はラーメンほど熱く語らなかった。それどころかめちゃくちゃ適当に語っていたように見受けられた。
そんな受付嬢の様子はどうでもいいとして、教えてくれた内容は大体こうだった。
アルフィス教徒は簡単に言うと愛と助け合いの宗教だった。
神アルフィスを唯一神とし、神の教えを護るような宗教。この宗教の主な教えは、神は人々を愛しており、常に見守っておられるとかなんとか。そんでもって、神は人々に周りを愛し、隣人を愛し、ともに手を取り助け合うことを教えたとかなんとか。そして、自分を、そして周りの全てを慈しむ心を持つものは世界が消滅したときに神のもとへ行けるとかなんとか。
要は愛と助け合いの教えを守るような宗教だった。
俺の世界で有名な宗教と言えば、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、ヒンドゥー教、仏教あたりだろう。アルフィス教は俺の世界で言うキリスト教に近いものがあると思う。
飛鳥が熱く語ってたな……。
ユダヤは規律を、キリストは愛を、イスラムは平等の宗教なんだと……。生まれた背景についても熱く語られたが、そこまではしっかりと覚えていない。
異世界で愛と助け合いを教える宗教か……こう、聞こえは素晴らしいような気がするけど、何か裏がありそうなんだよな。ここで宗教を出すってことは、噂の公爵令嬢と何か関係があるってことだろう。悪役令嬢がどうたらと、宗教が……。
いくら考えても結びつかない。
「そして噂のご令嬢様は…………神の姿を見て、神の声を聞いたことがあるらしいんですって、奥さん!」
「誰が奥さんじゃ、……って、は? 神の声を聞いた?」
「そうなんですよ。なんでも、神から直々に『汝悪役になれ。世界を救う少女の為の贄ととなれ』と言われたらしく、それからご令嬢様は悪役令嬢なるものを目指すようになったんですって。あと、とても心優しい子が無理して悪役になる姿のギャップが萌えるそうですよ」
愛と助け合いの宗教であがめられる神が悪役を強制するって意味が分からん。
というか、悪役令嬢ってこういうものだっけ?
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