32.のじゃロリが本気を出した!
リセの回復魔法で怪我が治った俺は、再びアッシュに向かってのじゃロリを構えた。
ちらりとリセを見ると、仰向けになって死にそうな表情をしている。はぁはぁと荒々しく吐く吐息が妙に艶めかしい。一体俺な何を考えているのやら。
『諸刃、わかっているかのう』
「ああ、分かってるさ」
生死の境をさまよっている時、のじゃロリの何かを感じた。気のせいかもしれないが……。
今までその意味がよく分かっていなかった。というのも、現在では鬼狩り事態人が少なく、じっちゃん出さえも
だから今まで
この馬鹿でのじゃのじゃうるさい馬鹿刀の本当の名を……。
『なんかすごく馬鹿にされているような気がするのじゃが』
「多分気のせいだ」
『なのじゃなのじゃ、でも気になるのじゃ』
「戦いが終わってか教えてやるよ」
『儂は何を教えられるのじゃ、不安じゃ、不安なのじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』
この駄刀は……。相変わらずのうるささだと思った。でも、それでいいと思う。いつものこいつとなら、あの鬼を、アッシュをぶちのめせる。
「行くぞのじゃロリ……いや、桜花っ!」
俺は生死の境をさまよった時に感じた、のじゃロリの真名を唱えると、のじゃロリの刀身がうっすらとした桜色に変わった。
のじゃロリを持っているだけで、なんだか力が湧いてくる。これが、
『のじゃああああ、やっと諸刃が儂の始解を解き放ったのじゃ、にょほほほほほほほ。やっぱり諸刃はやってくれると思っていたのじゃあ』
「なんだよ……ってちょっと待て、始解ってことはまだ解放されてないことが……」
『のじゃ、もっとあるのじゃ。まだ諸刃は儂のは先っちょを触り始めただけなのじゃ』
「先っちょって……ちょっと言い方がうざいぞのじゃロリ」
『桜花って呼んでっ!』
などと、新たに解放された力に驚き、また、
「おう、もういいか?」
「なんだ、敵なのに待ってくれたのか?」
「何、俺は強い奴とは正々堂々と戦うって決めてるんだ。その方が、面白いだろう?」
不敵に笑うアッシュにつられて、俺も笑った。そして俺たちは互いに前に出て……激しい戦いが始まった。
俺たちは真剣に戦っているはずだった。はずだったんだ。だけど周りがそれを許さない、なぜ、俺たちは味方のはずなのに。
「私は絶対に諸刃が勝つと思うの。だから諸刃に賭けるわ!」
「何言ってんのよリセ。諸刃が勝つのは当たり前だわ」
「いえいえ飛鳥様、ここはアッシュという敵にかけるのがいいかと。多分敵が勝ちますよ」
「いえいえ、主殿が勝つに決まってます。お前人間なのに何言ってるんですか。はいはい、ゴブリンたちも、一列に並んでどっちが勝つか選んでくださいね」
なんか賭け事が始まっていた。おれとアッシュは真剣に戦っている。今も殺すか殺されるかの戦いをしているのだ。刀と刀が激しくぶつかり合い、互いの全力を出し合って戦っている。
俺の攻撃をかわしたアッシュはそのままカウンターとばかりに攻撃を繰り出し、俺は姿勢を変えてのじゃロリもといい、桜花で受け止める。のじゃロリが受け止めるたびに『もう少し優しくしてほしいのじゃ!』と言ってくるので、更に気が散ってしょうがない。
「おいアッシュ。敵のお前にいうのもなんだかあれだが、すごく戦いにくくないか?」
「すまん、俺もそれ思った。まさか俺の部下まで賭け事を始めるとは思わなかった」
イリーナの影響力がヤバ過ぎた。さすがと言ってもいいかもしれない。ゴブリンの皇女としての力を発揮し、敵のゴブリンまでもまとめ上げ、俺とアッシュが1体1で戦える環境を整えた。それだけならまだいい。
ついでに勝った後のことも考えて、敵方のゴブリンを上手く騙し、取れる元を取っているというあくどいことまでしていた。
「……場所移すか」
「俺もそれ思った」
俺とアッシュは真剣勝負をじゃまされないように場所を移動した。それに、俺たちが全力を出すと、周りを巻き込みかねないという事情もある。決して、決して、賭けの対象になったから逃げだしたという訳ではない。
少し離れた場所で、俺たちは二人きりになった。風の音がよく響く。息を吐き、集中してアッシュを真っすぐ見つめる。
『のじゃああああああああああああああ』
突然のじゃロリが騒ぐ。いつものことだから気にすることはない。
『何をしておるか諸刃。もっと力入れるのじゃ! 気合入れるのじゃ』
「俺は気合入れて戦うタイプじゃないんだよ。少し黙ってろ、桜花」
『おっふ、わ、分かったのじゃ。それならいいのじゃ』
すっとのじゃロリを構える。
「行くぞ、アッシュっ」
「こいや、諸刃ぁぁぁぁああ」
鬼と鬼狩りの、真の闘いが幕を開けた。今までのは序章に過ぎない。あのバカで空気の読めない集団がいたから仕方がない。だが、うるさいのも消えた。もう、俺たちの戦いをじゃまするものはいない。
◇◆◇◆◇◆
あれからどれぐらいの時間が経っただろうか。時間の感覚すら忘れる程夢中になって戦った。
力と力、技と技のぶつかり合い。今までの鬼狩りで感じたことない感覚に高揚感が増した。
戦うのが楽しいと思ったのは、これが初めてかもしれない。
互いに体力の限界が近づいている。
「はぁはぁ……お前、やるじゃねぇか」
「互いにな、まさか鬼とここまで楽しく戦うことになるなんて思わなかった」
「だが次で最後だ」
「ああ、そうだな」
体力はもう限界だった。のじゃロリのことを重く感じるほどだ。
『のじゃ、最後の勝負じゃのう。行けるか、諸刃』
「ああ桜花。やってやろうぜぇ」
まるで青春漫画の一シーンのように、俺たちは構える。のじゃロリを構えると、だんだんと力が湧いて来た。まるでのじゃロリと自分が一緒になったみたいに。
柔らかい風が吹く。一呼吸おいた後、俺たちは駆け出した。
正真正銘、最後の一撃。互いの全てを出し合った最高の一撃で、俺とのじゃロリは勝負をきめにいった。
そしてーー。
「っく…………」
アッシュの攻撃に大きなダメージを追った俺はその場に膝をつく。傷口から少量の血が流れる。
「くそ…………負けたか」
鬼に負けたというのに、なんだろうか。すがすがしい気持ちになった。今までこんな気持ちになったことはない。アッシュは、なんだろう、ただ強い奴と戦いたいだけのアホに見えたからだろうか。
俺は負けた、そう思っていたのに、アッシュの口から出てきたのは、全く別の言葉だった。
「この勝負…………お前の勝ちだ」
そう言って、どさりと倒れる。
「くはーー負けた。畜生。勝ったと思ったんだけどな。負けたからには仕方がない。潔く死んでやる。さぁ、殺せっ」
殺せって言われても、俺も体力の限界だ。もう動くことも難しい。
だからもうしばらくこのままだろうなと思ったが、この状況をぶち壊す者たちが現れる。そう、あいつらがやってきたのだ……。
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