7.外、そして仲間
のじゃロリにも、このリセとかいう変態女にもからかわれて、俺は心が俺そうだった。鬼と戦う時も冷静でいられた……いや、あれを冷静と言っていいのか分からないが、それでもちゃんと戦えてた俺だけど今回ばかりはダメだ。
「ねえ、まだ恥ずかしがってんの。もう、だらしないわね。女神である私が直接声をかけてあげてるんだから、ちょっとはこっちを向いたらどうなの」
『ぷぎゃあああ、報いじゃ、儂をあんな生臭いところに突っ込んだ報いを受けたのじゃ』
俺はのじゃロリを地面にたたきつけて、再び拾った。
『ぷぎゃ、なぜじゃ、なぜ儂だけ……』
「うるせぇ、こんな恥ずかしい思いをしてるの、お前の余計な一言のせいじゃねえか」
『のじゃ、別に悪いことはしてないからセーフなのじゃ』
俺とのじゃロリが馬鹿な言い争いをしているところに、リセが近寄る。
「もう、楽しそうなお話しちゃって。私を仲間外れにしないで。私を構ってよ」
「ああ、分かったよ。とりあえず俺たちは外に出たいんだ。でもその前に、あれどうする。お前の仲間だろう」
俺はゴブリンたちに殺された死体を指して言った。この女、仲間を殺されてるくせに涙一つ流さないで、ヘラヘラ笑ってやがる。ちょっとヤバい女なんじゃないだろうか。そう思えてならない。
やっぱり逃げるか? うーん、判断に迷う。
「ああ、大丈夫。あれはほっといていいわ。女神である私にゴブリンを押し付けて逃げようだなんて、最低極まりない。死んで当然よっ」
「どうやって埋葬……って、え? あいつら仲間じゃないの」
「そうよ、私に仲間なんていないもの。だって、私が美しい女神だから」
『女神が何なのか知らんが、リセといったかのう。お主から神聖な力なんてなんも感じんのじゃ。リセはただの人間なのじゃ』
「ち、違うもん、私、女神だもんっ」
「まあとりあえず、落ち着け。ちょっと話を整理しよう」
のじゃロリに女神であることを否定された自称女神はなかなか落ち着きを取り戻さない。正直うざい。まあでも、幼馴染の飛鳥もこんな感じで、時々慌てふためいてうざい感じあったしな。そう思うとこいつは飛鳥に似ている。あいつ元気にしてるかな。
「んで、あいつらは仲間じゃないのか? じゃあなんでお前はあいつらと一緒に」
「一緒にじゃない。私ってば女神だから、仲間になってくれる人が誰もいないの。だからいつものように一人でダンジョンに入ったら叫び声が聞こえて……ゴブリンに追われてる
あいつらが現れた」
なるほど……敵を押し付けられたのか。それは災難だったな。
「ゴブリンたちは、私をちらっと見たから言ってやったわ。私は女神、崇めなさいと」
ゴブリンにそんなこと言っても言葉分からないだろう。馬鹿なのか、ある意味大物なのか。
「ちょっと、女神に向かって馬鹿って失礼じゃないっ!」
「な、なんで分かった」
『諸刃は表情でわかりやすいのじゃ』
「そうそう、あなた表情に出すぎ。馬鹿にしないで。私は女神なんだから、あやまって、今すぐあやまってよっ」
「くそめんどくせえビッチだな、おい」
「あー、私のことビッチって言ったっ! 違うもん、私まだ処女だもん、ばーかばーか」
自分が今、何を口走って言ってしまったのかを途中で理解したリセは、ちょっと顔が真っ赤になった。んで、真っ赤になりながら、恥ずかしさをごまかすように、俺のことを「ばーかばーか、変態、死ね」とののしってくる。
ちょっと待て、なぜ俺がそこまで言われなければならない。納得いかない。
「あ、もう、分かった。ゴメンって。んで、続きは?」
「心がこもってないけど、まあいいわ。私を構ってくれる唯一の人間だから許してあげる」
どれだけボッチなんだよ、こいつ。
「私はゴブリンに言ってやったわ。私は女神って」
『そこから始まるのか……。つらいのじゃ』
「まあそこは我慢しようぜ。なんだか楽しそうに語ってるから」
『そうじゃのう。生暖かい目で見守ってやるのが儂らの務めか』
「ちょっと二人とも、アレ、刀は一人でいいんだっけ? まあいいわ。ごちゃごちゃ言わないで私の話を訊きなさいっ」
別にこいつと喧嘩をしているつもりはないんだけどな。だけど何だろう、なんでこいつ、こんなに楽しそうに話しているんだろうか。あれか、ボッチ過ぎた弊害とか、実は一人じゃ生きられないけどトラブルメーカーだからわざと距離置いてる的な人種か? 後者だったらめんどくさいな。
「聞く姿勢ができたならよろしい。んで、ゴブリンなんだけど、私を一瞬見て戸惑い、元々追っていた冒険者をターゲットにしたっぽい。追われてた冒険者が、そんな、馬鹿なっ、って言ってたから多分そう。そして、私にゴブリンを押し付けようとした冒険者たちが殺された後、ゴブリンが私を襲おうとしたわけ。その時に諸刃たちがやってきたということよ」
なるほど、直感でこいつの頭の中のヤバさを感じ取ったのか。ゴブリンめ、なかなかやるではないか。敵ながらあっぱれじゃ。
『諸刃よ、なかなか最低なことを考えるのう』
「頼むから心の中を読むのをやめてくれ」
「え、何、二人とも私のこと馬鹿にしてるの。この女神に対して、馬鹿にしてるのっ! で、でも、構ってくれるなら許してあげる」
くそめんどくせー女につかまったと思った。この時、俺とのじゃロリの気持ちは完全に一致していたと思う。だってこいつ、『くそめんどくさいのじゃー』って言ってたし。
ある程度情報共有したところで、俺たちは外を目指した。そして一刻も早く、このリセという女と縁を切りたい。なんでかな、たまに漫画とかで出てくる、ヤンデレとか、そんな風な人種に見えるんだよね。ボッチこじらせすぎて誰かと一緒にいたいけど入れなかった子が、自分を構ってくれる人を見つけてなついちゃった的な。まさしくそんな状況なわけだけどさ。
「もーろはっ!」
突然リセが近寄り、名前を呼んでくる。俺はそっけなく「なんだよ」と返すと「へへ、呼んだだけ」なんてふざけたことを言ってくる。
まあ、こんな可愛くてきれいな女の子になつかれて、うれしくないわけじゃないんだけど……。やっぱり、こう、ボッチとヤンデレこじらせた感じ、そして自分のことを女神と言っちゃう感じが、とにかく不安だ。
「諸刃、あっち見て。もうすぐ外だよ」
『ほう、アレが外か。初めて見るのじゃ』
「のじゃロリはずっとヒッキーだったの?」
『いや、別にヒッキーという訳じゃないのじゃ。ただ、作られただけで外に出る機会がなかっただけなのじゃ』
「複雑な家庭事情?」
『そんな感じなのじゃ。リセよ。お主なかなかわかるのう。どっかの馬鹿垂れとは大違いじゃ』
イラっとしたので、俺はわざとごつごつした岩にのじゃロリをぶつけた。
『うべぇ、そういうところが可愛くないのじゃっ!』
「俺なりの照れ隠しとでも思ってくれ」
『うぬぬ、しかたないのう』
と、馬鹿な話をしている間に、気が付いたら出口までたどり着いた。日の光を感じながら、俺は一歩、外に出る。うっそうと茂った森、後ろを向くと、ザ・ダンジョン的な外見の洞窟。まさに異世界って感じがした。
「やっと出れたっ。諸刃、町はあっちよ」
「そんじゃさっさといくか」
『ゆっくりした場所で手入れをしてほしいのじゃ。まだ若干生臭いのじゃ……」
「あ、待って諸刃」
俺はリセに呼び止められ、後ろを振り向く。というか、お前が前を歩かないと町がどこだか分からないのだが。
「諸刃、その、あのね」
「なんだよ急に。どうした」
「私とパーティー組んでほしいのっ」
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