第117話 帝国の罠

 ユウヤは帝都に入ってすぐに複数の相手に監視されていることに気づき、向けられる視線を多さに正確な数が分からずにため息をついた。


「ユウヤ、どうかした?」

「何か気になることでもあるの?」


 ユウヤのため息に気づいたレティシアとマユリは首を傾げながら問いかけ、アヴローラは心配そうな顔でユウヤを見つめた。

 ルクスとレイラの二人はユウヤのため息の理由にすぐに思い至り、周りに気づかれないように周囲への警戒を強め監視者の多さに冷や汗をかいてユウヤに問いかけた。


「ユウヤ、どうする?」

「こうなったら帝都にいる方が安全だろうな」

「敵に囲まれた状態が安全ってどういうこと?」

「流石に向こうも民間人がいる帝都内では簡単に攻撃は出来ないだろ」

「そうかもしれないけど、これだけの数ってことは帝国軍は間違いなく敵よ」

「分かってる。けど、今すぐに逃げ出しても後ろから攻撃されるだけだけだ」

「どっちを選んでも同じか。なら、少しでも安全そうな方を選ぶってことか」


 ユウヤはルクスの確認に頷いて返し、帝都内で帝国軍に襲撃された場合の対処方法を考え始めた。

 周りに聞こえないように小声で話す三人の話を聞いてレティシアとマユリもルクスとレイラの二人のように周囲への警戒を強めながらユウヤが話すのを待っていた。


「一応襲撃されても大丈夫なように出来るだけ外壁から近い場所を通って移動しよう。襲撃された時に俺が無理矢理に外までの道を作る範囲なら何とかなるだろ」

「強行突破ということか?」

「ああ、それ以外に方法もなさそうだしな」

「……分かったわ」


 ユウヤの考えを聞いて黙って考えていたレイラがため息をついて返した。

 レイラの返しに他の三人も何も言わずに頷いて返した。


「取り合えずここから移動しましょう。今日中に必要な買い物を終わらせて、明日の早朝には万全な状態で帝都を出れるようにしておいた方が良さそうだし」

「そうね。ルイス、今晩寝てる時に襲われても大丈夫なように結界を張る準備しておいて」

『……』

「ルイス?」

『ああ、ごめん、少し考え事をしてた。それでどうしたの?』


 マユリの問いに対して何も返さなかったルイスにマユリは不思議そうに首を傾げながら名前を呼ぶといつも通りの口調で問い返した。

 そんなルイスの態度にマユリは不思議そうに首を傾げながらもう一度用件を伝えた。


「寝てる時に襲われないように結界を張る準備しておいてって言ったの」

『なるほど、分かった。けど、一時的な時間稼ぎ程度の結界しか張れないから、いつでも起きれる程度には警戒しておいてね』

「分かってる」


 ルイスとマユリの会話が終わると、ユウヤ達は帝都の外壁近くを移動しながら宿を探し、宿を見つけた後はしばらくの間町に寄らなくても大丈夫な程度の買い物を済ませてすぐに宿に戻り夕食を宿内で食べて早めに眠りについた。

 翌日はいつもより早く起きて準備を整えたユウヤ達が宿を出ると、宿の周りを鎧を着て剣や杖で武装した大量の人に囲まれていた。


「……最悪な状況だな」

「ああ、間違いなく帝都にいる帝国軍の精鋭部隊だろうな」

「おまけに魔石が埋め込まれた武具で武装しているから、中位以下の魔法は効かないだろうし、弱い物理攻撃も意味なさそうね」

「外壁まで強行突破すれば逃げるだけなので問題ないでしょう」

「まあ、こうなったら強行突破しかないでしょうしね」


 ユウヤはレティシア達の話を聞きながらユウヤ達を取り囲み、外壁方面に逃げられないように守りを固めている軍隊を見てため息をつき視線を抱きかかえているアヴローラに視線を向けた。

 アヴローラは軍隊を見て怯えたようでユウヤから離れないように震えながらもユウヤの服をしっかりと掴んでいた。


「そんなに怯えなくても大丈夫だぞ、アヴローラ」

「ほんと?」

「ああ、この程度の相手に怯えることはないさ」


 ユウヤはアヴローラの頭を撫でながら優しく声を掛けると、アヴローラは不安そうな目でユウヤに問いかけた。

 その問いに対するユウヤの言葉にアヴローラは少し安心したのか頷いて返した。


「この程度とは、随分となめられたものだな」

「……誰だ、お前は?」


 アヴローラに対する言葉に反応してユウヤに声を掛けた軍隊の前に立つ鎧を着ていない派手で大きな杖を持った男をユウヤは見ながら問いかけた。


「私か?私はこの帝国の皇帝、アドルフだ」

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