第98話 ユウヤの苦悩

 ユウヤとイザナミの剣技と舞の剣戟は数時間続いていた。

 イザナミは黒い靄を纏った刀でユウヤを追い詰め続け、ユウヤが本気になるのをずっと待ち続けている。

 ユウヤはイザナミの舞による剣戟を避け続けながら自分がどう動くかずっと考え迷い続けていた。


「いい加減に私を殺す覚悟を決めてくれないかしら」

「……少し黙っていてくれ」


 ユウヤの剣技を躱しながら話しかけてくるイザナミに短く返してユウヤは考えることに集中するため黙った。

 ユウヤの態度に不満そうな顔でユウヤの顔を見ながらイザナミは舞い続け、ユウヤが覚悟を決めるのを待った。


(イザナミを殺す以外に何か選択はないのか?)


 ユウヤはイザナミの本当の目的を聞いてからずっとイザナミを殺す以外の方法を考え続けていた。


(仲間になるって言ったのに、簡単に死ぬなんて言うなよ)


 ユウヤはイザナミを仲間や町の人を殺そうとしている敵ではなく、剣技の師匠として新しい仲間としてイザナミを救う方法を考えて悩み続けているが、未だに何も思いついていない。

 ユウヤ自身は自覚していないが、殺されるために人に呼び出されたイザナミを本来死ぬはずだった命をいろんな人に救われたユウヤは、殺すのではなく自分がされたように救いたいと考えていることをイザナミは気づいていた。

 そんなユウヤの思いを理解出来るからこそ、イザナミは不満そうな顔をしながらもユウヤの決断を待ち続けていた。


「イザナミ……どうしても死ななければならないのか?」

「何度も言ってるでしょ。私は今の私は殺されるために存在しているの、私は死なないといけない存在なの」

「どうして死なないといけないんだ?」

「それを話したらユウヤは私を殺してくれるの?」

「……分からない」

「…………はあ」


 ユウヤの答えを聞いたイザナミはため息をつき、ユウヤの剣技を避けることをやめたことで、ユウヤの刀はイザナミの首に当たり金属を硬いものに叩きつけたような音が響いた。

 イザナミが突然回避をやめたことに驚いて動きが止まったユウヤの鳩尾にイザナミは掌底を叩き込みユウヤを吹き飛ばした。

 ユウヤの刀を受け止めたイザナミの首は全く斬れておらず、ユウヤもイザナミの掌底が撃ち込まれる瞬間に魔力を集中させて防御したためダメージは一切通っておらずただ吹き飛ばされただけで終わった。


「……恐ろしく頑丈ね」

「お前には言われたくはないな」


 お互いに無傷の相手を見て呆れた顔で呟いたイザナミにユウヤは返した。


「この体は神の力で守られているからね。けど、ユウヤが本気で斬る気なら今の一撃で私は死んでいたわ」

「……」


 イザナミはユウヤを見ながら何でもないように説明し、その説明を聞いたユウヤは何も言えずに黙り込んだ。


「ユウヤ、はっきりと言うわ。私を救いたいなら、私を殺しなさい」

「!?」

「今の私にとって死だけが唯一の救い。だから、私を殺して」


 迷い続けるユウヤにイザナミはユウヤの目を真っ直ぐに見ながら告げた。

 そのイザナミの言葉に嘘偽りがないことを嫌でも理解させられたユウヤは刀を強く握り、俯いた。


(そうか……そうなんだな)

(流石にユウヤを追い込み過ぎたかな?)


 俯いたまま何も言わないユウヤにイザナミは表情には出さずに心配しながらユウヤを見ていると、刀を握っていた力が次第に弱まり始めた。

 イザナミがユウヤの行動に不思議そうに見ていると、ユウヤが顔を上げイザナミの目を見つめた。


「!?」

(それが、お前の唯一の救いなら、俺はお前を殺すために)


 イザナミはユウヤの何の感情も読み取れない深淵のような目に驚きと恐怖で冷や汗を流しながら一歩後ずさった。


(俺の感情を、心を殺そう)

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