第66話 イザナミとの修行

 ユウヤはイザナミと一緒に木造の大きな建物から出て長い階段の前まで来て帰る前に軽く話していた。


「じゃあ、明日また来るな」

「修行するから、この神社に一緒に住んでくれた方がいいんだけど、大丈夫そう?」

「そうだな、確かにその方がよさそうだ。明日、仲間に説明してから来るから少し遅くなるかもしれない」

「分かったわ。じゃあ、また明日」

「ああ、またな」


 ユウヤは話を終えると、イザナミに背を向けて長い階段を下りて宿に帰り眠りについた。

 翌日の朝、宿で朝食を食べて全員が揃っている時、ユウヤは話し始めた。


「悪いんだが、二年近くこの町で修行することになった」

「え?」

「どういうことですか?」

「昨日の夜出かけたことと関係があるのか?」

「ああ、詳しいことは省くが、秘薬の情報をもらうために強くなる条件を出されたんだ。それでしばらくの間住み込みで修行する」


 ユウヤの説明にルクスとレイラは呆れた顔をして、レティシアとマユリはため息をついた。


「その秘薬の情報が正しいと言い切れるのですか?それに、その人はあなたに修行させて何をさせるつもりなのか分かっているのですか?」


 説教をするように話すレイラにユウヤはため息をついて質問に返した。


「いや、全然。情報が正しい保証も無いし、何を企んでいるかは分からない」

「なら」

「けど、貴重な情報だ。あいつの許可が無いから詳しく話せないが、秘薬のことを知っている可能性は高い。それに、何か企んでいたとしても強くしてくれるなら、悪い話でもない」

「……」


 レイラは言葉を遮るように考えを話したユウヤに無言で呆れたような視線を向けた。

 ユウヤの考えを聞いて全員が黙って少し経つとレティシアが話し出した。


「分かったわ。ユウヤが修行している間の私たちの動きはこっちで決めるわね」

「ああ、頼む。俺はそろそろ行かないと修行が遅れるからな」

「最後に確認なんだけど、修行が終われば情報が聞けるのよね」

「ああ、だから、どれだけ早く強くなれるかが重要だ。あいつは二年と言っていたが、それより早く終わる可能性もある」

「分かったわ」

「それじゃあ、俺は行くな」


 ユウヤはそれだけ言うと宿から出てイザナミの居る建物に急いで向かった。

 ユウヤが言った後、レティシア達は今後のことを話し合い始めた。


「はあ、あいつは何考えてるのかしら」

「まあまま、あいつは師匠の仇であるデザストルを倒すことと母親の病気を治すこと以外頭にないんだろうよ」

「だからって自由行動が過ぎると思うわ」

「ユウヤに言いたいことがあるのは分かるけど、情報が手に入る可能性があるようだし、置いておきましょう」

「そうだね。私たちはこれからの行動を考えましょう」


 マユリの言葉にレイラが少し考えて考えを話し始めた。


「取り合えず、秘薬の情報を集めるために町の人に聞いて回ることかしら」

「それもあるけど、私たちも修行をした方がいいと思ううわ。最低限ユウヤについて行ける程度には強くなる必要があるわ」

「それもそうね。天災を倒そうというのだから、私たちも強くなる必要があるわね」

「そうだな。俺もユウヤにもらったあの大剣を使いこなせるようにならないとな」

「私も精霊魔法を使いこなせるようにならないといけないな」

「それじゃあ、これからしばらくは情報を集めと情報の真偽の確認、その間に各自修行でいい?」


 レティシアの確認に全員が頷いて返し、レティシア達は準備をして宿を出て町の人に話を聞いて回り始めた。




 レティシア達が宿を出た頃、ユウヤは階段を上り終わりイザナミの待っている建物についていた。

 階段を上り終わると、イザナミが竹ぼうきで建物までの通路の石畳を掃いていた。


「思ったより早かったですね。仲間に話すと言っていたのでもう少し時間が掛かると思っていました」

「みんな思ったより早く納得してくれた。それより、早く修行を始めよう」

「その前に道着に着替えてもらいます」

「道着?」

「はい、こちらです」


 そういうとイザナミはどこに持っていたのか白い着物と黒い袴をユウヤに渡してきた。

 ユウヤは道着を受け取り、イザナミにジト目を向けて問いかけた。


「どこから取り出したんだ?異空間収納とは違うようだったが……」

「一応神様ですから、これくらいは簡単にできますよ。それより、ユウヤが泊まる部屋に案内しますのでそこで着替えてきて下さい」


 ユウヤの言葉を適当にはぐらかして振り向き歩き出したイザナミは、先ほどまで持っていた竹ぼうきが無くなっていた。


(気にしない方がよさそうだな)


 竹ぼうきが消えたこと見て聞くことを諦めたユウヤは黙ってイザナミについて行き案内された部屋で道着に着替えた。

 道着の着方はイザナミの説明を聞いて何とか着替えて、イザナミの案内で建物の裏の広い場所に木刀を持ってきていた。

 広場に着くとイザナミがユウヤと向かい合って説明を始めた。


「まず、最初に斬撃を飛ばせるようになってもらいます」

「……は?」

「ですから、斬撃を飛ばせるようになってもらいます」

「いや、斬撃って飛ぶの?魔法を使うとかじゃなくて?」


 イザナミの説明に何言ってんだこいつっといいたそうな顔でユウヤは聞き返した。


「ええ、出来ますよ。鎌鼬のようなものです」

「刀で風の刃でも飛ばせと?」

「まあ、そんな感じですね。これをするには、力を自由に操れるようにならないと出来ないです」

「力を自由に操る?」

「ええ、斬撃は衝撃では少し性質が違いますが、空気を振動させて衝撃を飛ばすように、空気を刃のようにして斬撃にすることも力を上手く操れれば可能になります」

「難しい原理はよくわからん」

「大丈夫です。正直イメージを持ってもらうだけの適当な理論なので」

「それでいいのかよ」


 笑顔で言うイザナミにユウヤは呆れた顔をして聞き返した。


「まあ、世の中説明できない現象はたくさんありますから」

「神様がそれでいいのか?」

「私は全知の神ではありませんから、それより力を自由に扱えるようになるとこんなことも出来るようになりますよ」


 イザナミはそういうと近くにあった木に近づき何も持っていない手を手刀の形にして振り抜いた。

 イザナミが手を振ると木が倒れ、ユウヤが近づいて木の断面を見ると、鋭い刃物で切ったような綺麗な断面をしていた。


「手刀で斬ったのか?」

「ええ、これが出来るようになれば斬撃も飛ばせるようになります」

「要するに原理は何となくでいいから、これが出来るようになれってことだな」

「ええ、昨日の模擬戦で基本の型はとても綺麗だったから、木刀で岩を斬ってもらうところから始めましょう」

「……は?」


 イザナミの説明に変な声を上げてイザナミを見たユウヤだが、イザナミはそれを気にせずに近くにあった石に軽く触れると、石は大きくなり大きな岩になった。


「この岩をその木刀で真っ二つに斬ってください」

「さっきの木のように綺麗にか?」

「ええ、頑張ってね」

「はあ、分かったよ」


 ユウヤは岩に近づいて木刀を構えて意識を集中し、木刀を振り上げ岩に向かって勢いよく振り下ろした。

 岩は木刀が当たると、金棒で叩きつけたように砕け散った。

 ユウヤが岩を砕いた木刀を見ると、木刀は砕けてはいなかったが全体にひびが入っていた。


「ああ、流石に木刀が耐えられなかったか」


 イザナミは木刀で岩を砕いてひびしか入っていない木刀とユウヤを見て驚いた顔をした。


「まさか、一発目で岩を砕くとは思わなかったわ」

「本当なら木刀にひびもいれたくないんだが、最近は型の修行しかしてなかったから刀が壊れない振り方は上達してなかったみたいだ」

「それでも上出来よ。普通は木刀の方が砕けるか、両方とも砕けないかの二択だもの」

「体質のせいで力のかけ方を失敗すると、武器もろとも砕け散ってたからな」

「なるほど、力を操るのはある程度慣れてるってことか」

「ああ、使ってる武器が壊れないように今でも少し手加減して振ってるからな」

「なら、この修行で力を完全に操れるようになれば、全力で刀を振り回しても壊れることはないわよ」

「それはいいな。じゃあ、新しい岩を頼む」

「分かったわ。木刀も直してあげるわ」


 イザナミの言葉にユウヤが木刀を渡そうと差し出すと、イザナミが木刀の刀身に軽く触れ木刀にあったひびが綺麗に消えてなくなった。

 木刀を直した後、イザナミは砕けた岩に近づき破片を適当に間隔をあけて投げると、岩の破片が大きくなり先ほどと同じ大きさの岩になった。

 そして大きな破片に触れると岩は縮んでいき、元の石の大きさに戻った。

 そして先ほど斬り倒した木に近づき数回手を振ってある程度の大きさの木の板に斬り分け、木の板を拾い集めて戻って来ると木の板が木刀に変わっていた。


「木刀と岩はある程度用意したから、しばらくの間一人で頑張ってね。私は少し用事があるから建物に戻るけど、岩か木刀が無くなったら呼びに来てね」

「分かった」


 ユウヤの返事を聞くとイザナミは歩いて帰っていった。

 イザナミを見送ったユウヤは目の前の岩に向き直って木刀を構えた。


「それじゃあ、始めるか」

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