第67話 二人の生活
ユウヤが木刀で岩を割り始めて岩の残り数が少なくなってきた時、ユウヤの持っている木刀は最初の岩を割った時に比べて木刀はひび割れていなかった。
「これだけ割っても未だに木刀にひびが入るか」
「そんな簡単に出来ることではないわよ」
「帰って来ていたのか?」
ユウヤはいつの間にか後ろに立っていたイザナミに振り向きながら問いかけた。
「少し遅いですが、昼食の用意が出来たので呼びに来ました」
「もうそんな時間か」
「私の気配に気づかないほど集中していたようですね。思っていたより早く終わりそうです」
イザナミはユウヤが持っている木刀を見ながら、これからの修行をどうするか考えユウヤに話した。
「それでは、昼食を食べに行きましょう」
「ああ、案内を頼むよ」
「はい、こちらです」
ユウヤの言葉を聞いて、イザナミは木造の建物に入り昼食の準備をしている部屋へユウヤを案内した。
ユウヤが案内された部屋に入ると、木製の机に並べられた二人分の和食があり、机の近くに座布団が置かれていた。
イザナミが置かれていた座布団の一つに座ったのを見て、ユウヤも同じようにもう一つの座布団に座った。
「箸は使えますか?」
「大丈夫だ。昔、師匠に教えてもらった」
「そうですか。なら、食べましょう」
「いただきます」
「召し上がれ」
イザナミは微笑みながらユウヤが食べるのを見て自分も同じように箸を持って食べ始めた。
「うまいな」
「ありがとう。けど、数十年料理を続けていたらこれくらいは普通よ」
「イザナミ、あんた一体何歳だ?」
「女性に年齢を聞くのは失礼ですよ」
イザナミをジト目で見ながら聞いたユウヤに、イザナミは微笑みながら返した。
「聞きたいのは年齢じゃなくて、どうして数十年も生きて老いてないんだってことだよ」
「神様だから」
「けど、その体は依り代だろ」
「関係ないわよ。依り代の体でも神の力で守られている以上、この体が老いることはないわ」
「それは便利なことで」
「……」
ユウヤの呟きにイザナミは微笑みながら何も言わずに昼食を食べ続けた。
「どうかしたか?」
「いえ、どうもしないわよ」
「そうか」
ユウヤもイザナミの言葉を気にすることなく、イザナミと同じように黙って昼食を食べることに集中した。
少しして食べ終わったユウヤは箸を置いて手を合わせた。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様です」
「とても美味しかったよ」
「どういたしまして」
「食器片づけるが、どこに持って行けばいい?」
「私も一緒に持って行くわ」
ユウヤが自分が食べた料理が乗っていた皿を簡単にまとめながらイザナミに聞くと、イザナミもユウヤと同じように皿をまとめて立ち上がった。
ユウヤは皿を持ってイザナミの後について行くと、流し台のある部屋に着き流しに皿を置いて洗おうとすると、イザナミに止められた。
「皿は私が洗うから置いておいていいわよ」
「鍛えてもらって飯まで作ってもらったんだ、これくらいはやらせてくれ」
「鍛えてるのは私のためでもあるから気にしなくていいのに……まあ、ユウヤがそう言うなら、私は岩と木刀を直しておくわ」
「分かった」
イザナミはユウヤの言葉に少し考えて、ユウヤに洗い物を任せると部屋から出て岩と木刀を直しに向かった。
ユウヤはイザナミを見送って、流し台に置かれた皿を一つ一つ丁寧に洗い、食器を乾かすように台へ置いて部屋から出て修行の続きをするために、建物の裏に向かった。
ユウヤが着くと、イザナミは木刀や岩を直し終わりユウヤが来るのを待っていた。
「ありがとう。岩と木刀は直しておいたわ」
「ああ、一ヶ月以内に必ず木刀で岩を斬れるようになってやる」
「大丈夫ですよ。一ヶ月どころか一週間で斬れるようにしてあげますよ」
「い、一週間で……」
イザナミの言葉にユウヤは驚いて声が出ずにイザナミの顔を見つめた。
「さあ、始めますよ。一週間分の仕事は午前中に終わらせてきたので、ここからは修行にしっかりと付き合えますよ」
「そうだったんだ。改めてよろしく」
「ええ、よろしく」
イザナミはユウヤに直したばかりの木刀を手渡した。
ユウヤはそれを受け取ると、岩の前に立ち木刀を構えて意識を集中させた。
イザナミは何も言わずに木刀を構えたユウヤを見守り、ユウヤはイザナミを気にせずに木刀を振り上げて、岩に向かって振り下ろした。
岩は最初と同じように砕け、木刀にはわずかなひびが入った。
ユウヤは木刀を持ち換え、違う岩の前に立って同じように木刀を構えて意識を集中させた。
ユウヤが岩を数個砕いたところでイザナミがユウヤに声をかけた。
「ユウヤ、少し休憩よ」
「ん?もう少し出来るが?」
「いえ、私の助言を聞いて貰うため休憩よ」
「助言?」
「鍛えるって言ったでしょ。どうして出来ないのか、どうしたら出来るのか、それを教えるのが私の仕事よ」
「助言を貰えるのは助かるが、少し見ただけで分かるのか?」
イザナミの言葉にユウヤは首を傾げて首を傾げて問いかけた。
「大体ね。ユウヤ、あなたの剣の才能は凡人と大して変わらないわ。型は綺麗で無駄はほとんどないけど、それ以外はだめだめね」
「そんなにひどいか?」
「刀への負担をほとんどなくせていること以外は凡人と変わらないわ。規格外の身体能力と気配探知で何とかなってるけど、身体能力が互角の相手や気配を探知できない相手が現れたらほぼ確実に勝てないって言えるくらいには弱いわよ」
「そんなにか……」
イザナミの言葉にユウヤは少し落ち込み肩を落とした。
イザナミはユウヤの姿を見ながら続きを話した。
「私とユウヤの身体能力はほとんど互角、だから昨日はあんな簡単に勝つことが出来た」
「具体的に俺は何が出来てないんだ?」
「まず、型をうまくつなげることが出来てない。だから、一撃ごとに間隔出来て反撃される。次に、攻撃が単調過ぎて読みやすい。後は、決め手となる技が無い。まあ、これくらいかな」
「結構多いな……」
「まあ、全部あなたの身体能力が高すぎて今までまともに戦える相手がいなかったのが原因ね。一撃ごとに間隔があろうと動きが速すぎて反撃できない、攻撃が読めても早すぎて回避できない、決め手が無くても一撃一撃が強力で致命傷になる、人間離れした身体能力のおかげね」
「まったくもってその通りだな」
「けど、ユウヤの欠点が無くなるようにしっかりと鍛えてあげるから安心して」
イザナミはユウヤに近づいて落ち込んでいるユウヤの肩に手を置きながら励ました。
「ありがとう」
「まずは、岩を斬れるようになるところから始めましょう」
「おう」
そこからユウヤは岩を数個斬るごとにイザナミに助言を貰い、少しずつ動きの無駄や力の伝え方を直していった。
日が沈むころには木刀にひびが入ることなく、岩を割れるようになった。
「今日はここまでにしましょう」
「分かった」
「この調子なら本当に一週間で岩を斬れそうね」
「だといいんだがな」
「私が教えるんだから大丈夫よ。それじゃあ、夕飯の支度をするから少し休んでいて」
「いや、俺も一緒に作るよ。これでも子供のころからずっと料理はしてきたから手伝いくらいは出来る」
「そう。じゃあ、お願いしようかしら」
「ああ、任せろ」
ユウヤはイザナミと一緒に台所に移動すると、イザナミの料理を手伝い盛り付けをして出来た品を机に運んだ。
夕食を作り終わると、昼食の時と同じ様にイザナミと一緒に机の傍にある座布団に座った。
「驚いたわ。剣より料理の方が才能あるんじゃない」
「素直に喜んでいいのか分からない誉め言葉だな」
「褒めてるんだから、しっかりと喜べばいいのよ」
「まあ、ありがとう」
「それじゃあ、食べましょうか」
「そうだな」
二人は手を合わせて「いただきます」といった後、箸を持って夕食を食べ始め軽く話しながら食べた。
二人が夕食を食べ終わると、昼食の時と同じ様に皿をまとめて流し台に持って行き二人で洗った。
皿を洗い終わると、イザナミと一緒に夕食を食べた部屋に戻りユウヤは座布団に座った。
イザナミは立ったままユウヤに話しかけた。
「お風呂の準備をしてくるから、少し休んでいて」
「俺も手伝うが?」
「魔法を使ってやるから気にせずに休んでいて」
「……分かった」
ユウヤは魔法を使うとは言われて手伝うことを諦めて部屋から出て行くイザナミを見送り、軽くため息をついた。
ユウヤが座って少し休んでいると、イザナミは五分程度で帰って来た。
「もう準備できたのか?」
「ええ、簡単に準備出来るって言ったでしょ」
「確かに言ってたな、イザナミが先に入るか?」
「一緒に入る?」
「……からかってるのか?」
ユウヤはイザナミの言葉に呆れてジト目を向けて問いかけた。
そのユウヤの顔にイザナミは少し面白くなさそうな顔で返した。
「もう少し照れたりとか無いの?」
「照れたりは無いな」
「それは私に魅力が無いと言いたいの?」
イザナミは目を少し細めて少し低い声でユウヤに問いかけた。
「子供の頃、母さんの体を拭くの手伝ってたから女性の体に慣れてるんだよ。だから、今更見ても照れたりはしないよ」
「……ユウヤ、誰かを好きになったことある?」
「ん?ないが、それがどうしたんだ?」
何でもないように答えるユウヤに、イザナミは呆れた顔でため息をついた。
「あなたを好きになる子は苦労しそうね」
「?」
「なんでもないわ、それより先にお風呂に入って来て、上がって来るまでに布団の用意をしておくから」
「ああ、ありがとう」
ユウヤはイザナミの言葉が気になったが、深く聞くことはせずにイザナミに言われた通りに風呂に入り、用意されていた浴衣に着替えて、イザナミに案内された部屋にひかれていた布団で眠りについた。
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