死を司る女神
第61話 暗い女子会
レティシアとマユリが模擬戦で本気で戦ったことで疲れている中、ユウヤに言われた通りに少しの休憩の後すぐに移動した。
その日の夜、レティシア達が寝る女子のテントでレイラはルイスに話しかけた。
「ルイス様、聞きたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
『いいよ。何が聞きたいの?』
真剣な顔でルイスに話しかけるレイラを見て、レティシアとマユリも真剣な顔で二人を見た。
「ユウヤのことについてお聞きしたいことがあります」
『ああ、彼についてか』
「彼の魔導士としての才能は明らかに異常です。それなのに彼は魔法を使えない体質、そんなことがありえるのですか?」
『才能が大きければ大きいほど、本来才能を打ち消す力は働かない』
「つまり、彼はその数少ない事例ということですか?」
『それは違う、彼の才能を打ち消した力は自然の物ではない』
レイラの言葉をルイスは少し低い声で否定した。
ルイスの言葉を聞いて驚き目を見開いたレティシアとレイラと違って、ずっと黙って話を聞いていたマユリが話に割って入った。
「それって、ユウヤに掛けられてる呪いのこと?」
『そうだよ。それも彼が生まれる前に掛けられた呪いだ』
「あれほどの才能を殺すほど強力な呪いなのですか?」
『あんな呪いをかけられる存在はたった一つしかいない』
「!まさか、そんなはずは……」
「その存在って?」
ルイスの言葉を聞いてレイラは何か思い当たったようで驚き、レティシアとマユリは何のことか分からずに首を傾げていた。
『天災の化身さ』
「やはり……」
「な!?」
「天災の化身?」
ユウヤに呪いをかけた存在を聞いてレティシアは驚き目を見開き、マユリは名前を聞いても分からず首を傾げて問い返した。
『天災の化身は負の感情から生まれる最悪な存在。その呪いは因果にさえ干渉してあらゆる存在を殺す』
「それじゃあ、ユウヤが危ないんじゃ」
『大丈夫だよ。何があったか知らないけど、今は呪いはかなり弱っているみたいだから、少なくともあと十年はユウヤを殺せるほどの力はないよ』
「そうなんだ」
ルイスの言葉を聞いて安心したように胸をなでおろすマユリの隣で、レティシアは震える声でルイスに話かけた。
「待って、それはあり得ない!天災の化身はユウヤが生まれる五年くらい前にアイリさんが倒したはず、アイリさんが呪われるならまだしもユウヤが呪われるのはあり得ない」
『もしかして、ユウヤは大魔導師アイリの子供なの?』
「ええ、そうだけど」
『なるほど、そうだったんだ。けど、確かにおかしい本来はアイリが呪われているはずだ』
「じゃあ、どうしてユウヤが?」
レティシアとルイスの話でレイラとマユリも黙って考え始めた。
「もしかして、そのアイリさんからユウヤに呪いが移ったんじゃない?」
少し考えてマユリが思い付いたことを話した。
『多分そうなんだろうけど、才能を殺すだけならアイリを呪っていれば出来る。呪いはアイリを殺すことを放棄してでも、ユウヤに移らなければいけない何かがユウヤにあったんだろう』
「何かって何よ」
『それは考えても分からないよ。仮に何かあったとしてももう呪いによって消されてるだろうからね。いや、だからこそ呪いがあそこまで弱っているのかもしれない』
「そうなんだ」
ルイスの言葉で三人は黙ってそれぞれに何かを考え始めた。
しばらく静かな時間が続くと、レティシアがルイスに問いかけた。
「ねえ、呪いはどんな力を持っているの?どうやってユウヤやアイリさんを殺そうとしたの?」
『簡単だよ。因果に干渉して起こりえる可能性で最悪な結果を引き寄せたんだ。アイリなら無理をしたことで起こる最悪な病気に掛け、ユウヤは本来なるはずの無かった体質を引き寄せた。少しでも可能性があるなら、結果を引き起こすことが出来るんだよ』
「じゃあ、近くを通りかかったデザストルを呼び寄せることも出来る?」
『天災を引き寄せるとなると、かなり力を使うだろうけど可能だろうね』
「やっぱり、そうなんだ」
レティシアはデザストルと遭遇した時に、デザストルがユウヤに言っていた言葉の意味をようやく理解した。
「何か心辺りがあるの?」
「デザストルが『私を引き寄せたのは貴様だな』ってユウヤを見て言ってたから」
「流石は天災と呼ばれるだけはありますね。因果に干渉されたことに気づくとは」
「そういえば、天災って天災の化身と何か関係はあるの?」
マユリは気になっていたことをルイスに問いかけた。
『あんまり関係は無いよ。天災の化身って呼ばれてるのは、昔現れた個体が天災さえ殺すほど強力な個体だったから天災の代表的な意味を込めて呼ばれ始めたんだ』
「個体によって強さが変わるの?」
『ああ、あれは生まれた場所の魔力濃度と負の感情の強さに比例して個体の強さが変わるからね。天災と同等以上の力を持つ個体はまず生まれないよ。アイリが倒した個体も天災に比べたら弱いものだろうね』
「弱い個体でも因果に干渉するほど強力な呪いが使えるんだ」
『当然さ、天災の化身自体が呪いのようなものだからね。呪いに関しては右に出る者はいないさ』
「そうなんだ」
マユリはルイスの説明を聞くと、暗い顔で俯いているレティシアに視線を向けた。
「どうしたの、レティシア?」
「みんなにお願いがある。このことはユウヤには話さないで欲しいの」
「どうして?」
「ユウヤが呪いのことを知ると、私たちを呪いから守るために一人でどこかに行く可能性があるから」
「しかし、一人ではデザストルを倒すことが出来ないと言っていましたし、流石にそれは無いのでは」
「今はそうかもだけど、一人でも倒せる可能性が見つかれば確実に一人で行くわ」
「天災を一人で倒すなど出来るはずがない」
「ユウヤの魔力制御はまだ限界が来てないと言っても?」
「それって、どういうことですか?」
レティシアの言葉にレイラは驚いた顔で聞き返した。
「デザストルとの戦いでユウヤは極大魔法が撃てる魔力を生成した。けど、たった一か月でユウヤは制御出来るようになったわ」
「一か月で……」
「私はユウヤの制御能力に限界が来たから魔力量が増えなくなったと思ってた。けど、実際は生成器官が生成する魔力の最小値が排出量と等しくなっただけだった」
「そうでしたか」
「だから、ユウヤが一人で勝てる可能性を見つけたら、確実に一人で戦いに行くわ」
「……分かりました。ユウヤに呪いのことは話さないと約束します」
レイラは少し考えて話さないと言うと、レティシアはレイラからマユリに視線を映して問いかけた。
「マユリは?」
「私もレティシアが話さないって言うなら話さないよ」
『私もマユリが話さないなら、話さないよ』
「ありがとう、みんな」
レティシアは三人に頭を下げて御礼を言った。
マユリはそれを見て微笑むと話題を変えた。
「じゃあ、暗い話はここまでにして明るい話をしようよ」
「そうですね。なら、二人はユウヤさんのことが好きなのですか?」
「え?」
突然のレイラの言葉に二人は驚いて変な声を上げた。
「やはり、そうでしたか」
それから二人はレイラにユウヤのことで寝るまでの間からかわれることになった。
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