第60話 圧倒的な才能

 ユウヤ達が見守る中、レティシアとマユリは向かい合い戦う準備を始めた。


「ルイス、お願い」

『分かった』


 マユリが声をかけるとルイスはマユリの体の中に入り、マユリの背中からルイスのような楕円状の白い羽が四枚背中から生え、体からも薄く白い光を放ち始めた。

 マユリは自分の体の変化を確認するように、両手や背中の羽を見て呟いた。


「すごいわね。こんな膨大な力、今まで感じたことないわ」

『体内の力だけじゃないよ。今までと違って精霊の力を無償で使いたい放題でイメージだけで魔法を扱えるようになっている』

「つまり、この力はすべて身体強化に使えるってこと?」

『そうだよ。それに対してレティシアは体内の魔力以外は使えない。戦闘経験や知識の差は無視して優位に戦えるよ』

「なら、安心かな」


 ルイスの説明を聞き終わりレティシアを見ると、マユリの準備を終えたことを確認して身体強化魔法を使うため周囲の魔力を集め始めた。


『マユリ、前言撤回だ』

「え?」

『レティシアは体内の魔力を利用して空気中の魔力を集めて使ってる。霊力量と身体能力はこっちの方が上だけど、経験や知識で埋められる程度の差でしかない。思っていた以上に厳しい戦いになるよ』

「レティシアも普通じゃないってことね」

『ああ、油断しないでね』

「分かってる」

「待ってくれるのね」


 ルイスと話していたマユリにレティシアが声をかけた。


「こっちの準備も待ってもらったし、公平にね」

「そう。じゃあ、始めましょうか」


 レティシアは両手の掌を上に向けて、人を二、三人飲み込めそうな炎の球を作り出した。

 マユリはそれを見て同じ大きさの炎の球を四つ作り出して背後に待機させた。


「空気中の魔力を使っても魔力量では勝てないか」


 レティシアはマユリの作り出した炎の球とマユリから感じる霊力量で力を探り小さな声で呟きながら確認を始めた。


「精霊の力だけで魔法を使ってるみたいだから、ルイスの霊力とマユリの魔力は身体強化に全部使えるだろうから、身体能力では負けそうだな」


 マユリは作り出した炎の球を四つレティシアに放ち、炎の球の影に隠れてレティシアに接近した。

 レティシアは炎の球を自分の二つの炎の球で相殺し、残った二つの炎の球を魔力障壁で防いだ。

 マユリはレティシアの張った魔力障壁を殴り壊してレティシアを殴ろうとしたが、レティシアは最低限の動きでマユリの拳を躱して腕を掴み背負い投げで地面に叩きつけた。


「子供のころからユウヤの訓練に付き合ってた私に近接戦を仕掛けるだけ無駄よ」


 ルイスはマユリが叩きつけられる前に背中を霊力で守り衝撃を弱め、マユリは掴まれた手から炎を出してレティシアを攻撃した。


「だめか」


 レティシアは炎に耐えられないと判断して、マユリの腕から手を放して少し離れた。

 マユリはレティシアが離れたことで立ち上がろうとしたが、雷の球を上から叩きつけられた。


「流石、精霊王ね。ここまで的確に防がれるなんて思ってなかったわ」

『僕も君がここまで強いとは思わなかったよ』

「ありがとう、ルイス」

『気にしなくていいよ。けど、これは消耗戦になりそうだね』

「ルイス、攻撃も出来る?」

『出来るけど、攻撃を受けるとまずいから余裕がある時だけする』

「分かった」


 マユリはルイスの確認を取り魔法で伸ばしたつるで攻撃をしながら、レティシアに接近して接近戦を仕掛けた。

 レティシアは魔法でつるを燃やし、マユリの近接攻撃をいなして魔法でカウンターのように攻撃を仕掛けてルイスに防御された。

 マユリは近接攻撃を仕掛けながら魔法を撃ち込み、レティシアは近接攻撃と魔法でカウンターを仕掛け、離れたところに魔法を撃ち込みながらルイスに防がれないタイミングを探りながら攻撃を仕掛けた。

 ルイスはマユリの防御に専念して、余裕がある時に魔法で攻撃を仕掛けた。


 ユウヤ達はそんなレティシア達を見て呆れた顔をした。


「あいつら、全力で戦って無いか?」

「ああ、全力だな」

「あの二人すごいわね」

「俺はレイラの張った魔力障壁もすごいと思うがな。あれだけ流れ弾を受けて壊れないなんて」

「私の障壁は特殊だからね」

「特殊?」


 ユウヤはレイラの言葉が気になって目線をレイラに移して問いかけた。


「私の障壁は……」

「おい、あれはまずいんじゃないのか?」


 レイラがユウヤに説明をしようとした時、ルクスが呆れた顔で戦ってる二人の方を指さしながら言った。

 レイラもレティシアとマユリが極大魔法を用意し始めたのを見て、説明をやめて周りへ被害が出ないように障壁を増やし始めた。


「あの二人、殺し合いでもしてるの?あんなの人に撃つものじゃないわよ」

「あれは流石に止めた方がよさそうだな」

「下手に割って入ったら死ぬぞ?」

「俺が止めるから大丈夫だ」

「ユウヤ、魔法が使えないんでしょ。障壁を張れないと本当に死ぬわよ」

「大丈夫だ。考えがある」


 レイラにそれだけ言うと、ユウヤは目を閉じて集中し始めた。


(ルイスに精霊の眼を借りた時の感覚を魔力で再現)


 ユウヤは精霊の眼をルイスに借りた時に体内に流れ込んできた霊力の動きを正確に思い出し、魔力を使って完璧に再現し始めた。

 霊力の動きを再現したユウヤが目を開くと、精霊の眼と同じ視界が広がっていた。


(よし、見えた)


 ユウヤは刀を抜いて極大魔法を放とうとしている二人を見ながら、レイラに話しかけた。


「俺が障壁内に入ったら、入り口は閉じてくれ」

「構わないけど、本当に死ぬわよ?」

「やばいと思ったら逃げるさ」

「……気を付けてね」


 レイラはユウヤを止めることを諦めて障壁を開けたり閉じたり出来るように集中し始めた。

 ユウヤは障壁の中にいる二人の真ん中に向かって走り出した。

 ユウヤが障壁に着いた時に二つの極大魔法が放たれ、障壁内に強力な炎と雷が生み出され障壁内は地獄のようになった。

 放たれた二つの極大魔法を見て障壁内に入ったユウヤは地面を全力で蹴り、最高速で障壁内を飛び回り二つの極大魔法を斬り、障壁の外に出た。


「「!?」」

『……ありえない』


 ユウヤに斬られた極大魔法は柱を折られた建物のように内側に潰れるように崩れ余波が障壁内に吹き荒れ大半の力は霧散して消えた。

 レティシア達は何が起きたか理解できずに、驚き目を見開いて障壁の外に出たユウヤを見た。

 ルイスはユウヤが何をしたのか理解して、理解できないと言いたいような顔でユウヤのことを見た。

 極大魔法の余波が消えたところにユウヤが障壁の中に入って来た。


「二人とも、やりすぎだ」

「……ごめんなさい」

「ご、ごめんなさい」


 二人は荒れ果てた障壁内を見てユウヤに頭を下げた。


「少し休んだら出発予定通り移動するからな」

「え!今日はもうここで野宿しようよ」

「だめだ」

「結構疲れてるんだけど」

「本気で戦ったお前らが悪い、自業自得だ」

「そんな~」


 レティシアとマユリは肩を落として落ち込んだ。

 ユウヤはそんな二人を置いてルクス達の居る場所に歩いて向かい始めた。

 二人は仕方なくユウヤの後ろを追って歩き出した。


「そういえば、さっきユウヤ何したの?」

「それは私も聞きたい」


 マユリがユウヤに質問すると、ユウヤは歩きながら簡単に話した。


「ああ、魔法を支えて束ねてる核みたいなのを斬っただけだ。あれさえ斬れば魔法は崩壊すると思ってたが、思った以上に余波が強かったな」

「へ~、魔法ってそんなのがあるんだ」


 マユリはユウヤの行ったことがどれだけ異常なのか理解できなかったため普通に返したが、レティシアは驚いて立ち止まってユウヤを見つめた。


「どうしたの?レティシア」

『マユリ、君の思っている以上にユウヤのやったことは異常なんだよ』

「そうなの?」

『まず、魔法の核って言うのは精霊の眼が無い限り見つけることは出来ない』

「けど、精霊の眼は邪霊を倒す時にルイスが貸したんでしょ。なら、その時の感覚を再現すれば出来るんじゃ?」

『確かに、再現すれば精霊の眼は扱えるよ。けど、そんな簡単に再現できるなら精霊の眼を手に入れるために苦労している人はいないさ。一回使っただけで再現出来るほど精霊の眼は簡単な技術じゃない』

「そんなにすごいものだったんだ」

『まあ、精霊の眼を使えてるのも異常だけど、それ以上に核を斬れたことが異常だ』

「そうなの?」


 マユリはルイスの説明を聞いて何がそんなに異常なのか未だに理解できていなかった。


『魔法の力を支えている核が簡単に刀で斬れるほど脆いわけないだろ。それも極大魔法の核となれば鉄の塊を斬るより遥かに難しい』

「ユウヤが剣技の達人ってこと?」

『いや、剣の達人でも魔剣クラスの剣だと簡単に折れるさ。おそらく、ユウヤは魔法の核の脆い部分を見極めて斬りってる』

「核に脆い部分なんてあるの?」

『当然あるさ、どんなものにだって弱点はある。けど、それを見極めるのは剣の才能がいくらあろうと不可能だろうね。剣を自由自在に扱えても魔法のことを理解してないと脆い部分は見つけられない』

「それって……」


 マユリはルイスの説明を聞いてようやく理解した。

 ユウヤの行ったことがどれだけ異常なのかを理解し、ルイスの話を聞きながらレティシアと同じように驚いた顔をユウヤに向けた。


『ユウヤは、精霊の眼を当然のように習得し、使ったことも無い魔法の性質をあの一瞬で見抜いたんだ。魔導士としての他者を寄せ付けない圧倒的な才能がないと出来ないことだ』


 レティシア達はルクス達のところに平然と歩いていくユウヤを驚いた顔で見ながらしばらくの間立ち尽くした。

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