第44話 逃走

 ユウヤとレティシアは魔物を警戒しながら、レティシアの張った魔力障壁に隠れながら話し始めた。


「どうする?ユウヤ」

「すこしの間一人で時間を稼げるか?」

「ええ。けど、どうするの?」

「魔力探知に集中して核を探す」

「分かったわ」


 ユウヤはレティシアの返事を聞くと、レティシアから離れて後ろに下がった。

 後ろに下がったユウヤを護るようにレティシアはユウヤを魔力障壁で包み込んで、魔物に炎を圧縮した球を数個を牽制のために放った。

 魔物の炎の球が当たった場所は一瞬にして液体が蒸発し吹き飛んが、すぐにもとに戻り足止めくらいしか出来そうにない。

 魔物は液体の髪を伸ばしてくるが、レティシアが遠隔操作し炎の球で一部の髪の攻撃を蒸発させ、残りを魔力障壁で防いだ。


「流石に全部は焼き切れないか……」


 レティシアは氷の魔法を発動させて洞窟内に氷の柱を十数本作り出して魔物の動きを制限し炎の球を器用に動かし氷の柱に当てずに魔物だけを的確に狙って攻撃を続けた。


 レティシアが魔物を足止めしている間、ユウヤは構えを解いて目を瞑り深呼吸して呼吸を整えて集中力を高め始めた。

 レティシアの魔力障壁に守られているため、ユウヤは安心して集中力を高めていき周りの魔力を探り始めた。


(洞窟内にあいつの体の中にある核以外は特に何もないな)


 ユウヤはさらに集中して範囲を広げていくと、探知に何かが引っかかった。


(魔物の少し後ろの地面に魔物の体の一部が埋まってるのか?)


 ユウヤは無作為に広げていた探知を地面に埋まっている気配に集中して探知し始めた。


(洞窟の隙間に魔物の体が入っているのか。なら、この気配をたどれば本体に辿り着くか)


 洞窟の隙間から伸びている魔物の体の一部を見つたユウヤは、深呼吸をしてさらに集中力を上げ、魔物の体を辿り本体を探し始めた。

 ユウヤが魔物の探知をしている間、レティシアは目の前にいる魔物の観察をしながら魔法で足止めをしながら倒し方を探っていた。


(あの魔物、再生能力や攻撃能力は高いけど、知力はかなり低い)


 レティシアは髪を伸ばす攻撃や氷の柱を避けての攻撃をほとんどせずに、氷の柱を破壊して攻撃してくる魔物を見て知能が低いと判断し氷の柱を破壊されるたびに作り直していた。


(魔力も多いみたいだけど、知能が低いせいか魔法の類は全然使ってこない)


 レティシアは魔物を警戒して見ながら、少し魔物から視線をユウヤに移して様子を見るが、ユウヤはまだ目を閉じて立っているだけだった。


(もう少しかかりそうね)


 時間が掛かると思ったレティシアは視線を魔物に戻すと、魔物が炎の魔法を放つとこだった。

 魔物の魔法を止められなかったため、氷の柱はすべて熱により溶かされレティシアの視界は赤く染まった。

 魔力障壁を張っていたため無傷ですんだが、レティシアは少し急いで風の魔法を放ち灼熱の炎を風で押し返して魔物に浴びせたが、レティシアと同じように魔力障壁を張った防いだ。


(急に知能が上がった!?)


 魔物の急激な変化にレティシアは一瞬驚いたが、すぐに冷静になり魔物の魔法を警戒しながら攻撃魔法を放った。


 魔物が魔法を放つ少し前、ユウヤは気配を辿った先に大きな魔物を見つけた。


(こいつが本体か。なら、あの中心にある魔力の塊が核だな)


 ユウヤが魔物の核を見つけた時、本体が伸ばしていた洞窟の隙間にあった体が延びて目の前の魔物に繋がった。

 目の前の魔物と本体がつながった理由をユウヤが考えていると、目の前の魔物が魔法を放ちレティシアが作った氷の柱をすべて溶かしてしまった。


「!?」


 最初の戦闘で使っていなかった魔法を魔物が使ったことでユウヤは驚いたが、すぐに本体と目の前の魔物がつながった理由を理解した。


(目の前のこいつは単純な動きしか出来ないってことか。さっき、核を壊して再生したのも本体とつながったからか)


 本体の位置と目の前の魔物の変化を理解したユウヤは、レティシアの張った魔力障壁から出てレティシアの横に並んだ。


「レティシア、魔物の本体の位置が分かった」

「本体はどこにいるの?」

「この山の地下空間にいる。倒すなら山ごと吹き飛ばすしかない」

「じゃあ、今回は逃げるってこと?」

「ああ、その前にこいつだけは倒していくぞ」

「分かったわ」


 ユウヤは刀を構えると魔物に突っ込んでいくと、魔物はユウヤに向かって氷や水、炎の塊を飛ばしてきた。

 魔物の放った氷などの塊をユウヤは当たりそうなものだけをすべて刀で切り裂きながら近づいた。

 レティシアはユウヤが突っ込んだ後、ユウヤの後ろから魔物と同じように氷などの塊を作ると、魔物の魔法にぶつけて相殺しユウヤの援護をしながら威力の高い魔法の準備を始めた。

 ユウヤは魔物とすれ違う瞬間に核をすべて切り捨て破壊して分身体の動きを止め、洞窟の壁の一部を刀で斬り岩を作ると本体が伸ばしている体の一部が出ている隙間に叩きつけて隙間を塞いだ。

 魔物の本体は岩をどけようと押し上げようとしてくるが、力で押さえつけるが分身体の核を再生したのかユウヤに襲い掛かってきた。


「レティシア、撃て!」


 ユウヤの声を聞いたレティシアは先ほど放った以上の炎魔法を放つと同時にユウヤを魔力障壁で包んだ。

 レティシアの魔力障壁で包まれたユウヤは灼熱の炎に囲まれながらも無傷で済んだが、分身体は断末魔の叫びを上げながら蒸発して跡形もなく消えてなくなった。

 魔物が消えたことを確認すると、岩を抑えているユウヤのもとにレティシアが近づいて来た。


「ユウヤ、どうしたの?」

「この下の隙間から本体が延びてきている。炎で岩を溶かして地面にくっつけてくれ」

「分かったわ」


 レティシアはユウヤに言われた通りに、炎の魔法を使うと器用にユウヤの手を避けて岩と地面の接触面を溶かして隙間を塞いだ。


「これでいい?」

「ああ、大丈夫だ」


 ユウヤは岩から手を放して問題ないことを確認すると、レティシアの方を向いて頷いて答えた。


「それじゃあ、ギルドに報告に行くか」

「そうね」


 二人が洞窟から出るために外に向かって歩いていると、後少しで出口というところでユウヤは山の下から急激な魔力の上昇を感じ取って足を止めた。


「なんだ、これ?」


 ユウヤが止まったことで魔力探知をしたレティシアもすぐに大きな魔力の存在に気づいた。


「さっきの魔物の本体?」

「いや、さっき見た時はこんなに魔力は大きくなかった」

「けど、他に山の中に魔物なんているの?」

「分からない。急激に魔力が上昇した理由があるのかもしれんが、やばいな……」

「魔力量はユウヤの方が多いけど、急激に魔力が上昇するなんて……」


 二人が話していると、背後から何かが崩れる音が聞こえてきた。

 背後を二人が振り返ると、ものすごい勢いで何かが近づいてくる音が聞こえ少しして、先ほどの魔物の体らしき液体が津波のような勢いで迫ってきた。


「逃げるぞ!」


 ユウヤは声を出しながら出口に向かって走り出した。

 レティシアもユウヤの声を聞くなり、出口に向かって走り始めた。


「レティシア」

「なに?」

「洞窟を破壊して、炎で岩を溶かせるか?出来れば出口までに」

「走りながらだと、無理!」

「走りながらじゃなければ出来るんだな!」

「出来るわ!」

「分かった!」


 ユウヤはレティシアの返事を聞くと、少しスピードを落としてレティシアの後ろに回り走りながらレティシアを抱え上げお姫様抱っこすると、スピードを上げて走り出した。

 レティシアはユウヤに抱きかかえられながら、魔法の準備を始め少しすると背後の洞窟の天井に魔法を放ち、洞窟を破壊した。

 魔物は液状の体を生かして岩の隙間から這い出ようとしてきたが、そこにレティシアが炎の魔法を放った。

 灼熱の炎により岩が溶けて隙間を塞いだが、急いでいたため威力が弱かったためか岩の温度がすぐに下がり、魔物が壊そうとしているのかひびが入り始めた。


「長くは持たないか」

「大丈夫」


 ユウヤの呟きにレティシアはそれだけ返すと、さらに魔法の準備を始めた。

 魔法の準備を始めて岩との距離がかなり開き出口が見えてくるころ、背後で岩を砕き魔物が迫って来る音が聞こえた。


「止まって」


 ユウヤがレティシアを抱えて洞窟から出た瞬間、レティシアがユウヤに止まるように声をかけたことで、ユウヤが止まるとレティシアが洞窟に手を向けて出口から魔物が見えた瞬間に魔法を放った。

 レティシアの放った灼熱の炎は岩の隙間から出て来た魔物を蒸発させ、岩に当たると岩は赤くなりかなり奥の方まで溶けて壁のように洞窟を塞いだ。


「今のうちに逃げましょ」

「そうだな」


 ユウヤはレティシアを抱えたままその場から全力で走って逃げた。

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