第23話 人間の限界

 魔物の群れを殲滅して、冒険者ギルドに依頼達成の報告をするために町に向かって移動を始めた初日の夜、焚火の周りで四人は話していた。


「変異種のオーガはどうじゃった、ユウヤ」

「思った以上に強かった。まさか、あんなに強い奴がいるとは」

「じゃろうな、変異種の魔物は同種の魔物とは比べ物にならないほど強いからの」

「赤いオーガより強い魔物もいるのか?」

「いるわよ。数え切れないくらいたくさん」

「!?」


 ドロシーの言葉に問いかけたユウヤとレティシアは目を見開いて驚いた。


「そんなにいるの?」

「まずオーガより上位に位置する種の変異種は当然だけど、高位の魔物は変異種でなくてもかなり強い」

「代表的なのが竜やヴァンパイアなどじゃの」

「そんなに……」


 ユウヤは龍壱とドロシーの説明を聞き自分の手を見ながら考え始めた。


「攻撃を受け止められたことが気になるか?」

「ああ、変異種とはいえオーガに受け止められるとは思ってなかった」

「仕方ないさ。人と魔物では肉体構造が違うからの、身体能力では魔物の方が高い」

「身体能力は俺より上ってことか」

「身体強化している魔物中には、ユウヤの全力を上回るものもおる」

「そんな……」

「身体能力でかなわないから人は魔法や技を極めるのよ」

「技術は人が強力な魔物を撃つために磨いてきたものじゃからの」

「そうだったんですね」


 ドロシーと龍壱の言葉にユウヤは俯き、レティシアは納得したような声を出して頷いた。


「身体能力に任せたやり方だと限界がくるってことか」

「強い敵と戦わなければ問題ないだろうが、強い魔力は魔物を引き寄せることもある強くなって置いて損はないぞ」


 ユウヤは龍壱の話を聞くと龍壱に体を向けて真剣な顔になり話し始めた。


「龍壱さん、改めて刀を本格的に教えてください」

「構わんが、どうして自分からやる気になったんじゃ?」

「赤いオーガと戦ってAランクとして生き残るには技術が必要だと思い知らされたからです」

「そうか、分かった。明日からさらに厳しくやっていくぞ」

「はい」


 龍壱の言葉にユウヤは頭を下げて御礼を言った。


「さて明日から本格的に修行するうえで聞きたいことがあるんじゃがいいかの?」

「はい、大丈夫です」

「ユウヤ、全力で身体強化して動く負荷に耐えるために何割の魔力が必要じゃ?」

「……今まで全身に魔力流してたから分からない。龍壱さんはどれくらい使うの?」

「わしの場合はちょうど半分かの。鍛えているとはいえ、老いて衰えておるからの」

「じゃあ、俺は四割くらいかな?」

「分からん」


 ユウヤと龍壱が分からずに首を傾げて悩んでいると、レティシアが声をかけてきた。


「ユウヤなら三割で大丈夫だと思うよ。ユウヤの体は普通の人より頑丈だから」

「なんでレティシアがそんなこと分かるんだ?」

「流石に細かい量は分からないけど、大体ならユウヤの魔力や体の強度から計算できるから」

「なるほど……レティシアはすごいな」

「その歳でそんな計算が出来るとは、驚いた」

「確かに、すごいわね」

「……」


 三人の褒める言葉にレティシアは恥ずかしくなり少し顔を赤くして俯いた。


「そうそう。言い忘れていたが、戦う時は魔力を心臓ではなく頭に集中させるんじゃぞ」

「ん?どうして?」

「今までは全身に魔力を回していたから気にならんかったじゃろうが、体の一部だけに回すと思考と感覚がついて来なくなるのじゃ」

「ついて来ないとどうるの?」

「眼前に岩がいきなり現れたりする」

「分かりました」

「後は、殺意を向けられたり攻撃が肌に当たる瞬間に戦闘態勢に入れるように訓練することも覚えておいてくれ」

「分かりました」

 

 龍壱の言葉にユウヤは顔を引きつらせながらも、しっかりと頷いて返した。

 そんな二人の様子を見てドロシーは面白そうに笑いながらレティシアに話しかけた。


「レティシアも頑張って修行しないといけないわね」

「はい」

「町についたら次の仕事までもっと厳しい修行をするわよ」

「分かりました」


 レティシア達もユウヤ達を見て真剣な顔で話し合い夕食の残りを食べ始めた。

 四人は夕食を食べ終わると、レティシアとドロシーの二人はシャワーを浴びるためにテントから離れ、ユウヤと龍壱はドロシーが出したお湯で布を濡らして体を拭き眠りについた。

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