第17話 模擬戦
ユウヤと龍壱は訓練場に少し離れ、訓練場で借りられる木刀を持って向かい合った。
訓練場の壁付近にはたくさんの冒険者が見学に来ていた。
レティシアはムラサキと一緒に上の階の部屋からユウヤ達を見ていた。
「開始の合図はどうする?」
「なくていいじゃろ、いつでもかかって来い」
「そうか、なら遠慮なく」
言い終わると同時にユウヤは全力の七割の身体強化を行い一瞬で距離を詰め木刀を龍壱に振り下ろした。
レティシアはユウヤの速度を見て「遠慮しなさすぎ」と小さい声で呟いたが、ユウヤの七割の速度に涼しい顔で対応し紙一重で木刀を避けたことで驚き固まった。
ユウヤもレティシアと同じく避けられないと思っていたため、驚き一瞬だけ動きを止めてしまった。
「逃げんでいいんか?」
「!?」
龍壱に言われてユウヤは同じ速度で距離を取るが、先ほどよりさらに警戒の目で龍壱を見た。
「なんで攻撃しなかったんだ?」
「様子見で終わっても実力が分からんからの」
「あっそ」
ユウヤはそれだけ言うとまた龍壱との距離を詰め木刀を振り下ろした。
龍壱は同じように避けるが、ユウヤはその行動を読んでいて振り下ろした木刀を龍壱に向かって振り上げた。
しかし、龍壱はユウヤがギリギリ目で追える速度で木刀を動かし、ユウヤの攻撃を受け止めた。
「!?」
「どうした、そんなに驚くことか?」
龍壱の言葉を聞いてユウヤは目を細めて睨み、一秒にも満たない瞬きの間に十連撃を叩きこんだ。しかし、全ての攻撃を龍壱は涼しい顔で防ぎ切った。
そんな龍壱を見てユウヤは距離を取った。
「なんじゃ、もう終わりか?」
「ここからが本気だ」
「ほう、では見せてもらおうか」
ユウヤは全力で身体強化を行い人とは思えない速度で龍壱に接近し先ほど以上の速度で連撃を叩きこんでいくが、そのすべてを防がれる。しかし、先ほどとは違い龍壱も真剣な顔ですべての攻撃を防いでいた。
レティシアはユウヤの全力に対応してくる龍壱を見て驚き、隣で見ているムラサキに話しかけた。
「あの龍壱という人、何者なんですか?」
「龍壱さんですか?そうですね」
ムラサキは龍壱の方を見ながら少しの間考えて模擬戦を見ながら説明してくれた。
「龍壱さんは、ステータスだけで言えばBランク上位の冒険者とほとんど変わらないのに唯一Sランク冒険者になられた方です」
「!?あれでBランクとステータスが変わらないんですか?」
「はい、龍壱さんは身体能力がBランクの平均より低いんですが、魔力量はAランクの魔導士と同じくらいあるんです」
「けど、身体強化したとしてもユウヤと渡り合えるとは思えないんですが」
「ええ、ユウヤさんの身体能力をあの魔力量で強化すれば普通は勝てないでしょうね」
ムラサキの言葉にレティシアは引っかかり次の言葉を待った。
「龍壱さんは必要な場所にのみ魔力を集中させて強化しています。全身に百の強化をしても使わない場所はありますから、龍壱さんは身体強化の無駄を一切なくして次の動きに必要な筋肉に魔力を集めて百で強化しています。つまり、龍壱さんはユウヤさんと以上の身体強化を行っているのと変わらないということです」
「そ、そんなこと、出来るわけが……」
レティシアはあり得ないと思い、龍壱の方に視線を向けた。
ユウヤの攻撃を未だに防ぎ続けていることを見るに、ムラサキの説明が本当であると理解した。
しかし、それは全魔力を瞬きの間に何度も正確に移動させているということである。
「そんな精密な魔力制御が人に出来るものなの……」
レティシアの小さな呟きは誰にも聞こえなかった。
ユウヤは龍壱に連撃を打ち込みながら、龍壱の動きをよく見ていた。
かなりの速度で打ち込まれる攻撃を正確に木刀で防ぎ、威力を完全に殺している。
その上木刀の動きに一切の無駄がなく、流れるように正確に攻撃を防がれる。
それを理解したユウヤは龍壱から距離を取り、全力で一撃を打ち込むために構えた。
「あんたすごいよ」
「ほう、それは負けを認めるということか?」
「そうだな。次の一撃を防げたら負けを認めて、弟子になってやる」
「ほう、なら全力で来るといい」
ユウヤは呼吸を整えて集中し、全力で踏み込み自分の出せる最高速度で龍壱との距離を詰めた。
そして最高速度を生かして最大の威力で撃ち込んだ。
ユウヤは自分の木刀が折れても龍壱の木刀を折る気で撃ち込んだが、龍壱の木刀に防がれた。
龍壱の木刀もユウヤの木刀も折れることなく、代わりに床に龍壱の足元から放射状にひびがかなりの範囲に広がった。
「は!?」
ユウヤは自分の木刀は折る勢いで振っていたため、龍壱の木刀だけでなくユウヤの木刀も折れなかったことに驚いた。
龍壱は攻撃を防ぎ終わると、構えを解いて深く息を吐いた。
「これでわしの勝ちじゃな」
「ああ、俺の負けだ」
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