第18話 大魔導師の弟子

 ユウヤとレティシアと龍壱はムラサキに案内されてギルド内の一つの部屋に通された。

 通された部屋では、一人の男性が待っていた。

 男性はユウヤ達が部屋に入ってくると椅子から立ち上がり、龍壱に頭を下げた。


「お久しぶりです、龍壱さん」

「ただの冒険者に冒険者ギルドのマスターが頭を下げる必要はない」

「いえ、龍壱さんは数少ないSランク冒険者ですから、ギルドマスターとはいえ敬意を払わなければ、先代のマスターに怒られますから」

「まったく堅苦しいのう。まあいい、本題に入ろう」

「そうですね」


 龍壱と話し終わるとギルドマスターはユウヤとレティシアの方を向いて軽く挨拶してきた。


「はじめまして、私はこの町の冒険者ギルド支部のマスターをしているタレスだ。よろしく」

「よろしくお願いします。私はレティシアです」

「よろしくお願いします。ユウヤです」


 タレスに頭を下げて挨拶したレティシアを見て、ユウヤも同じように挨拶した。


「それでは、そちらのソファーに座ってくれ」

「分かりました」


 ユウヤとレティシアがタレスに言われたソファーに座ると、体面に置いてあるソファーにタレス、ムラサキ、龍壱の三人が座った。


「まず、ユウヤ君のランクはAということでいいね」

「はい、構いません」

「そしてレティシア君は、ユウヤ君と同じAランク、ただし龍壱さんのパーティに入り同行することが条件でいいかな?」

「いいんですか?私は先ほどBランクと言われたのですが?」

「ええ、あなたもAランクでもおかしくない実力はあります。ユウヤ君と同じで冒険者としての経験がないためBランクにしたと聞いています。なら、ユウヤ君と同じように龍壱さんのパーティに入って経験を積むことが条件でAランクで構いません」

「分かりました。ありがとうございます」


 ユウヤとレティシアはタレスの決定に頭を下げて礼を言った。

 レティシアとタレスが話終わったことを確認すると、ユウヤが龍壱に質問をした。


「あの、パーティっていうことは、龍壱さん以外にもいるんですか?」

「ああ、話してなかったの。普段はわしともう一人魔導士と一緒に行動しておる」

「魔導士、あのその人のランクは?」


 ユウヤの質問に答えた龍壱の答えに、ユウヤではなくレティシアが反応した。


「ん?ああ、嬢ちゃんは魔導士だったの。あいつのランクはわしと同じSランクじゃ」

「!あのその人に魔法を教えてもらうことって出来ますか?」

「悪いが、本人に聞いてみんと分からん。わしからも頼んでみよう」

「ありがとうございます」


 レティシアは立ち上がり、龍壱に頭を下げて礼をした。


「さて、では嬢ちゃんの弟子入りの話もせんといけなんし、わしらはそろそろ帰るぞ」

「はい、分かりました。その前に二人とも冒険者カードを出してください」

「分かりました」

「何かするんですか?」


 タレスの言葉に二人は冒険者カードを出してタレスに渡した。


「カードに二人のランクを入れるためです」

「書いたら、もう消せないんじゃ?」

「いえ、ランクの記載はステータスと同じように特殊な波長の魔力で行います。そのため記載内容を変えることはその波長を知っている人には簡単に出来るんです」

「へー」


 タレスの説明にユウヤは何となくしか内容を理解できないため、適当な返事をした。


「ああ、やっぱり理解できませんよね」

「私は記載方法より、カードと鏡の素材が気になります」

「すごいですね。今の説明でカードの素材が特殊なことに気づけるなんて」

「私に魔法を教えてくれた人も似たような紙を持っていましたから」


 ムラサキの感心したような言葉にいつも通りの無表情で返した。


「すごいですね。魔力で文字を書く紙は珍しくてあまり手に入らないものなんですが、その人について教えてもらってもいいですか?」


 レティシアはユウヤに視線を向けると、ユウヤは頷いて返した。


「ユウヤの母親で、名前はアイリです」

「!?」


 レティシアがアイリの名前を出した瞬間、ムラサキとタレスだけでなく龍壱も驚き固まった。

 三人の反応にユウヤとレティシアは理由が分からずに動きを止めた。


「どうしたんですか?」

「その人は今病気で魔法が使えない魔導士であってますか?」

「ええ、あってます」


 ムラサキの質問に頷いて返したレティシアを見て、三人は顔を見合って頷き二人に向き直った。


「その人は、二十年くらい前に勇者と一緒にを討伐した大魔導師です」

「……?」

「天災の化身って何ですか?」


 ムラサキの話を聞いて二人はよくわからなく首を傾げて、レティシアが質問を返した。


「えっと、天災の化身というのは、恐怖、恨み、憎しみなどの負の感情と空気中の魔力が集まり稀に生まれる存在です」

「それはそんなに危険な存在なんですか?」

「アイリさんが討伐した個体は確認されている限りで十数個の国を滅ぼしています」

「!?」


 ユウヤとレティシアは驚いた顔をして固まった。


「冒険者もたくさん殺されました。その中にはSランク冒険者もたくさん入っています」

「それほどの化け物をアイリさんは討伐した。その時の無理が原因で病気になられ、冒険者を引退されました」


 ユウヤは初めて聞くアイリのことに驚き目を見開いて、しばらくすると俯いた。

 レティシアはアイリの病気の原因が分かり、納得したような顔をしてユウヤの方に視線を向けた。


「母さん、そんなすごい人だったんだ」

「……」


 二人がアイリについていろいろ考えていると、龍壱が呟きにユウヤとレティシアが反応した。


「それにしても、これで三人になるのか」

「?三人ですか?」

「私たちのパーティは龍壱さんを入れて四人ではないんですか?」

「ああ、そうではない。さっき話した魔導士はアイリさんが現役の頃弟子だったんじゃ」

「それって……」

「ああ、わしのパーティにはアイリさんの関係者が三人に入るわけじゃ」

「偶然……ですかね?」


 龍壱の話にムラサキが首を傾げながら答えた。


「何かの奇縁かの~」


 龍壱の言葉に部屋にいる大半の人が苦笑して返した。


「さて、細かい話はまた今度しよう。下で仲間が待っているからの」

「分かりました」

「それじゃあ、二人とも行くぞ」

「はい」


 ユウヤとレティシアは龍壱に後に続いて、下の階に降りた。

 龍壱が一階のフロアに降りると、一人の女性が近づいて来た。


「待ちましたよ。龍壱さん」

「すまんのう。それとこの二人が今日から仲間に加わることになった」

「この子たちがですか?」


 女性はユウヤ達を見て、二人の前に立ち満面の笑顔で自己紹介した。


「初めまして、私はSランク冒険者の魔導士のドロシー。よろしくね」

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