第13話 旅立ちの前日

 ユウヤとレティシアが修行を初めてさらに五年が経ち、二人は十五歳になった。

 現在二人は、森の中でを持って模擬戦をしていた。

 ユウヤは圧倒的な身体能力をレティシアと同じ程度に合わせて木刀を持ち森の中を走り回りながらレティシアに攻撃していた。

 レティシアも攻撃魔法は使わず索敵やサポート魔法のみに縛り使用していた。


 レティシアが森の中を走っていると、近くの木に隠れているユウヤが索敵魔法にひっかり木に近づくと、ユウヤが姿を現し三連続で打ち込んできた。

 レティシアはユウヤの攻撃を木刀で防ぎ、ユウヤの首に向けて打ち込むが躱され、ユウヤに首元に木刀を突き付けられて模擬戦は終了した。


「おつかれ、レティシア」

「おつかれ」


 二人は握手をした後、木刀を持って村に向かって歩き始めた。


「それにしても、五年前から木剣から木刀に変わったけど、なんでだろう?」

「今更そんなこと言ってもね」

「まあ、そうなんだけど、少し気になって」

「ガウスさんなりの考えがあるんじゃない」

「そうなんだろうけど……」


 ユウヤは木刀に変わったことが腑に落ちないでいた。

 そんなユウヤを見てレティシアはため息をつき話を変えた。


「それより、私たちもそろそろ旅に出るんだから、準備しないといけないでしょ」

「ん~、準備っていても、服はリリスさんに頼んで作ってもらってるし、武器はガウスさんが作ってくれてる。お金に関しては母さんがある程度用意してくれてるから、服と武器が出来るまで修行するしかやることないじゃん」

「まあ、そうなんだけど……村の人達本当に親切よね」

「だから、冒険者になって恩返しするんでしょ」

「恩返しって言うけど、具体的に何するの?」


 レティシアの問いにユウヤは考え始めて、少し経つと話し始めた。


「冒険者になってから考えよう」

「完全なノープランじゃない」

「そんなことはないよ。母さんへの恩返しは決まってるから」

「そうなの?」

「うん」


 ユウヤは力強く断言して頷いた。


「何をするの?」

「ガウスさんの話だと、東の国にどんな病気でも治す秘薬があるらしいんだ。それを取って帰ってこようと思ってる」

「それ本当の話なの?」

「イリスさんにも聞いたけど、本当のことらしいよ。けど、数が少ないから手に入れるのは難しいって言われた」

「そう。なら、まずは秘薬を探すために東に向かうのね」

「うん、冒険者になってお金を稼ぎながら東に向かうつもり」

「分かったわ」


 二人が話していると、村の門が見えてきた。

 二人は門番の兵士に頭を下げて挨拶すると、門番の二人も同じように返してくれた。

 二人が門を通って家に帰ろうとすると、門番が思い出したように声をかけてきた。


「あっ!ユウヤ、レティシア、ガウスさんが修行が終わったら家に来てくれって言ってたぞ」

「分かりました」


 門番の言葉にユウヤは振り返って返事をし、行先をガウスの家に変えた。

 ガウスの家に着くといつも通り扉を開けて中に入った。


「ガウスさん、門番の人に言われてきたけど何か用?」

「おお、来たか」


 ユウヤとレティシアが中に入ると、ガウスは奥の机の椅子から立ち上がり近寄ってきた。


「お前たちの武器と服が出来たんだ。服はさっきリリスさんが持ってきてくれた」

「本当ですか!」

「おお、待ってろ今持ってくるから」


 ガウスがそういうと奥の部屋に入っていった。

 少しすると、ガウスが二つの袋と二本の刀を持っておくから出てきた。


「持ってきたぞ」


 ユウヤとレティシアは袋と刀を受け取り、刀を鞘から抜いてみた。


「ガウスさん、この剣何?木刀に似てるけど」

「それは刀だ。前に話した秘薬がある東の国で剣の代わりに使われている武器だ」

「けど、俺は大剣を使うんじゃないの?」

「町の外で魔物と戦う時は大剣を使えばいいが、町中や大剣を振り回せない場所で戦う時に使う武器が無いと困るだろ」

「それは……確かに」


 ガウスの言葉にユウヤは顎に手を当てて考えて納得した。


「けど、それなら剣を使えばいいんじゃ」

「刀は剣よりも斬ることに特化している。しかし、横からの力に弱く簡単に折れる」

「それなら剣でいいんじゃ……」

「ユウヤ、刀は脆い。だから、ちゃんとした斬り方で斬らないと、簡単に刃こぼれするし、折れる」

「ますます、剣の方がいいんじゃ」

「ユウヤ、お前にとっては普通の剣は、全力で振ったら簡単に折れる程度の物だろ。だからこそ、剣術を教えるうえで刀の扱い方を教える必要があった」

「どういうこと?」


 ユウヤはガウスの言いたいことが理解できず首を傾げて問い返した。

 レティシアはガウスの話を聞いて納得したような顔をしているが、自分も刀を渡された理由は分かっていないようだ。


「つまり、刀や剣が折れないために、刀に伝わる力を制御出来るようになってほしかったわけだ」

「なるほど、確かに木刀で力の伝え方はある程度分かったけど、木剣で同じように教えることは出来なかったの?」

「……わしが剣でそんな器用なことが出来んから教えられん」


 困ったような顔で言うガウスにユウヤはジト目を向けた。


「しょうがないじゃろ、わしに出来ん事は教えられんのだから」

「まあ、いいけど。その刀、俺が全力で振っても壊れないの?」

「ああ、それは保証しよう。ユウヤが変な振り方で斬らない限り折れることはない。それどころか刃こぼれもほとんどしない」

「それは流石に胡散臭い」


 ユウヤはジト目でガウスを見ながら言うと、ガウスはユウヤの持っている刀を取り説明を始めた。


「いいか、よく聞け。この刀は普通の刀を撃つときに使う玉鋼に、純度の高い魔石の粉を一定の割合で混ぜて作った金属を使って打っている。そのため、耐久力で言えば魔剣クラスの強度を誇っている。それでいて刀の特性を生かし、よく斬れて折れにくいわしが作った最高傑作じゃ」


 ガウスの自信満々な説明を聞いて、剣や刀に詳しくないユウヤにはよくわからなかったが、一つ思い当たることがあった。


「それって、あの大剣と同じ作りをしてるってこと?」

「まあ、正確には違うが、簡単にいうとそうじゃの」


 ユウヤの言葉にガウスは何とも言えない顔で返し、刀のユウヤに返した。

 レティシアはユウヤとガウスの話が終わったことを確認すると、手を上げてガウスに質問した。


「あの、ユウヤについては分かったんですが、私も刀を使う理由が分からないんですが」

「ああ、レティシアは単純に剣に比べて軽いからじゃの。魔導士のレティシアが重たい剣を装備して戦うより、軽くて良く斬れる刀の方があってると思っての」

「そういうことですか。分かりました」

「レティシアは変なこと気にしたくていいの~」


 簡単に刀を使うことを受け入れてレティシアにガウスは嬉しそうな顔をした。


「それじゃあ、服は家に帰って着替えてみるといい」

「分かりました」


 ユウヤはそう言うと、部屋の隅にあった大剣を持って帰ろうとした。


「その大剣はもう持って行くのか?」

「はい、今日中に村の人に挨拶して、明日には旅立とうと思っているので」

「そうか。気を付けていくんじゃぞ」

「分かってます」

「お邪魔しました」


 ユウヤがガウスの家を出て家に帰ろうとした時、レティシアに止められた。


「ユウヤ、そんなでかい剣持って帰ったら邪魔になるからかして」

「ん?いいけど、これ重いよ」

「触れられれば異空間収納に入れられるから大丈夫」


 そういうとレティシアはユウヤの大剣に触れて、目を瞑り少し集中すると大剣のしたに魔法陣が現れ、大剣を吸い込んで消えた。


「すごいな」

「町の中では私が異空間収納に入れておくわ」

「ありがとう。助かるよ」


 満面の笑みで御礼を言うユウヤに、レティシアは恥ずかしそうに俯いて家に向かって歩き始めた。


「いいから、帰るわよ」

「はーい」


 レティシアの後に続いてユウヤも家に向かって歩き始めた。

 二人は家に帰ると、アイリに事情を説明して村の皆に挨拶をして回り、イリスのもとにアイリの看病をお願いしに行った。

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