アインシュタイン「わたしの頭脳力は530000」です

ちびまるフォイ

間違いのない選択をしてくれる人

「またお前が学年トップかよ~~」

「いったいどんな勉強してるんだ?」

「テスト前の勉強している素振りなかったのに」


「まあ、俺はほら天才だから。

 ひとつ覚えただけで10できちゃうんだよね」


「「「 むかつくーー! 」」」


「ハハハ」


昔から自分は他の人間とどこか違うと本能的に気づいていた、

それは年を経るごとに具体化していく。


いまや生徒会長として周りのバカどもを従えることになっている。

自分が求めたわけじゃない、自然とこの流れになった。


そう、俺は人の前を歩くべき人間なのだと。


「今日は転校生がいます。アルベルトくん、入って」


教室に入ってきたのは眠そうな顔の男だった。


「アルベルト・アインシュタイン、です」


「あ、アインシュタイン!?」


「アルベルトくんは偉人クローンとして復活したのよ。

 現代にはまだうといからみんないろいろ教えてあげてください」


昼休みになるとまっさきに転校生のもとへと向かった。


「君があの有名なアインシュタイン?」


「まあ……そうらしいね」


「記憶はあるのかい? 相対性理論とか」


「意味のない質問だね。自分の推測を確かめるために僕を経由しないでくれ」


「……?」


「僕はクローンだよ。生まれ変わりじゃない。記憶なんてあるわけないだろう」


「だ、だよな……」


言い負かされるのは初めてだった。

なんとか主導権を取ろうとした次のテストではアインシュタインに負けてしまう。


「うそだろ……! 念の為いつも以上に勉強したのに……!!」


「はぁ、バカバカしい。書いてあることを答えるのがそんなに偉いのかい?」


「っ……!!」


アインシュタインは学校にろくに出ずにささっと教科書を見ただけで、

すらすらと答えを書いて満点だけでなく、より効率的な指導方法まで書きやがった。


「ふ、ふん。たしかに頭は俺よりいいのかもしれない。

 だけど人間の才能ってのは他にもあるんだ。頭でっかちのお前にまけるか」


美術の授業ではデッサン勝負と勝手に競った、

しかし次の合同授業では他クラスにピカソとゴッホという偉人クローンが在籍していた。


両者の絵は写真以上に細部まで美しく描かれ美術の先生を気絶させた。


俺はといえば……。


「なにが偉人クローンだ! ふざけるな!!」


みっともない捨てゼリフだけで精一杯だった。

俺が感じていた自分の天才性は偉人クローンたちの才能の前に踏みにじられた。


偉人クローンの弊害は俺の通う学校だけでなかった。


「ただいま……」


「父さんおかえり。なんか疲れてる?」


「最近、上司が偉人クローンになってな。フォン・ノイマンという人なんだが

 頭が良すぎてついていくのでやっとなんだよ……まるで宇宙人だ」


死亡した過去の天才たちのDNAを復元して作る偉人クローン。

復活した偉人たちはまたたくまに現代に順応し、世界を変革させていった。


『新しいスマホを紹介しましょう。もう皆さんの前にあります』


『いったいどこにあるんですか?』


偉人クローンとしてテレビに出たジョブスはインタビュアーを見て笑った。


『手を開いてみてください、あなたの手がスマホになるんです。

 これからはもうスマホを落として画面を割ることもなくなりますよ』


記者の手のひらにはアプリのアイコンが並ぶホログラムが浮いていた。

それをニュースで見ているだけで凡人が追いやられる恐怖をただ感じた。


「学校の文化祭でうちのクラスが出す出し物ですが

 凡人のみなさんがしょうもないことをあれこれ議論するよりも

 圧倒的に優れているアインシュタインくんに決めてもらいましょう」


「そうだよねそのほうがいい」

「俺たち以上に考えられるしな」

「私、アインシュタインくんに従うわ」


しだいに偉人クローンのワンマン化が目立ち始めた。


「ちょ、ちょっとみんな! それでいいのかよ!?」


「なに? なにか文句でもあるの?」

「逆に聞くけどアインシュタインより良い案出せるわけ?」

「変に反論したところで、アインシュタインのほうが正しいでしょう」


「そ、そうかもしれないけど……」


偉人クローンが来てからただの一度も彼らを上回った人はいない。


「単に自分のプライドが高くて言いなりになりたくないだけでしょう。

 私達は最も合理的で、間違いのない正しい方法を選んでいるだけ」


「ただアインシュタインに従っているだけだろう!?」


「考えなしに従っているわけじゃない。選んで従っているだけ。

 それに今は意味がわからなくても後できっとアインシュタインが正しいって思える。

 天才の考えることを理解できなくても変じゃないもの」


「そいつも人間だから間違うかもしれないじゃないか!」


「あなたより間違いは少ないわ」


そのときだった。

黒い特殊戦闘服を着た大人たちが銃を構えて入ってきた。


「あ、あなた達誰ですか!?」


「アインシュタインがいるぞ!」

「確保!!」


先生の静止もふりきりアインシュタインは取り押さえられた。


「やめてください! その子がいったい何をしたっていうんですか!」


「国家間での偉人クローン所持上限を知らないのか!

 子供でスタートして我々の監査の目を逃れようなどとこそくなマネを!」


「所持って……そいつは、アインシュタインはどうなるんですか」


「凡人の貴様に教える必要はない」


なにも抵抗できずにアインシュタインは連れて行かれた。

のちに、ヒトラーをクローン蘇生されたことが問題となり、偉人クローンはいなくなった。


すべて処分されたという。


「アインシュタイン……」


友だちでもなかった。むしろ憎らしい相手だったが忘れたことはなかった。

ついぞ勝つことができなかったことがモチベーションとなり俺はますます勉強した。


持ち前の才能ではけして勝つことができないぶんを努力で底上げした。


学校を卒業する頃には「現代のアインシュタイン」とまで言われるようになった。


「君ほどのすぐれた人間は本校始まって以来だよ。

 君のような人間を天才というのだろうね」


「いえ、俺もまだまだですよ。

 俺が死んでも偉人クローンされるレベルじゃないです」


「ハハハ。偉人クローンはもう禁止されとるよ。

 まったく、面白い冗談をいうね」


校長は一息ついてから話を続ける。


「君の優れた頭脳を見込んで国からお達しが出ている。

 そこで君の才能を存分に生かしてみないかい?」


「はい!! 喜んで!!」


俺の能力を国が認めてくれた。

きっと最高の機関で最大限のことができるのだろう。


指定された場所はひどく豪華な工場だった。


「君の学業の成績やIQについては聞き及んでいるよ。

 現代のアインシュタインといわれるだけはあるね」


「認めてもらえて本当に嬉しいです」


「君のような天才は他の人間を統べるにふさわしい。

 ここで人類のために、最先端の研究をしてくれたまえ。

 必要なものはなんだって用意しているよ」


役人がブラインドを上げると大きな窓から研究室が見えた。

まったく同じ顔をした人間が同じ部屋にずらりと並んでいる。


「凡人クローンだ。必要な作業があれば命じてくれたまえ。

 過去の天才を使えなくなった今、

 我々は現代の天才を最大限バックアップしたいんだ」


「で、でも偉人クローンは禁止で……」




「"凡人"をクローンで量産するのは、問題ないだろう?

 世界には雑多な凡人よりも一握りの天才が必要なんだよ」

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アインシュタイン「わたしの頭脳力は530000」です ちびまるフォイ @firestorage

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