第48話

 帝都は生き地獄となった。

 奴隷達の報復は凄惨を極めた。

 彼らが長い時間をかけて受けてきた理不尽な暴力を、一瞬で晴らそうとしたのだ。

 奴隷として受けた、ありとあらゆる暴力と拷問を、帝都の民にぶつけた。


「助けてくれ。

 ここは地獄だ。

 条件通り城門を開けたんだ。

 約束通り助けてくれ。

 うぎゃぁぁぁ」


「今更遅い。

 条件は七日の間だ」


 奴隷の蜂起で大混乱するなか、城門の一つが開かれた。

 帝国軍が奴隷を鎮圧できなかった地域の騎士や徒士が、命惜しさに城門を開いてレーナ軍を引き入れたのだ。

 レーナ姫は即座に城内の治安維持を命じた。

 抵抗する帝国軍の鎮圧と同時に、奴隷達の叛乱を治める必要があった。


 それに、城門を突破したとは言え、それは帝都の城門だ。

 帝都に住む平民が住んでいる街を護るための城門だ。

 帝王とその家族が住む、本丸・二ノ丸・三ノ丸。

 帝室に連なる貴族と重臣が住む四ノ丸。

 下級貴族が住む五ノ丸。

 騎士と徒士が住む六ノ丸。

 突破しなければならない城壁と城門がまだまだあるのだ。


 だがここまでくれば簡単だった。

 捕虜にした帝国の騎士や徒士を使えばよかった。

 彼らに裏切りを条件に助命を約束したのだ。

 彼ら自身だけではなく、家族の助命も約束したのだ。

 多くの者が進んで裏切った。


 彼らを安心させるために、専任の直属上司を決めた。

 直属上司に屋敷の場所を報告し、レーナ軍が攻撃しないようにした。

 彼らの屋敷が攻撃されないように、玄関に掲げる裏切り者用の旗を渡した。

 それでも間違って攻撃してしまったり、戦場荒らしに襲われないように、レーナ軍の駐屯場所として、直属上司の暁の騎士が安全を確保する事にした。


 多くの裏切り者が、六ノ丸の城門を開いてレーナ軍を引き入れた。

 これからの事も考えて、暁の騎士団員が裏切り者の屋敷に入り、本人と家族の安全を確保した。

 あらかじめ決めてあった治安部隊が即座に巡回を始めた。

 平民の為の広大な城内も同じだった。


 だが多くの平民が略奪暴行を受けていた。

 虐殺された者も数多くいた。

 だが彼らもこれからは大公家の民になるのだ。

 後の取り調べで奴隷に落とされる者もいるだろうが、裁判までは平民としての権利を有しているのだ。


 一日で六ノ丸を安定させたレーナ軍は、五ノ丸の城門を開かせることに成功した。

 帝都の城壁を護っていた将兵の中には、下級貴族も数多くいたのだ。

 彼らも命が惜しくて進んで裏切った。

 中には忠義の士もいたが、そんな者は極僅かだった。

 それに裏切った騎士や徒士が家族共々助命されているのを見れば、裏切りたくなるのが人情というモノだ。


 そしていよいよレーナ軍は、四ノ丸を護る城壁を包囲するのだった。

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