第47話

 レーナ姫が率いる暁の騎士団と外様貴族士族軍は、一気呵成に帝都に攻め込んだ。

 帝国軍は再度譜代貴族士族に動員を命じると同時に、帝室貴族にも動員を命じた。

 更には帝都に屋敷を与えられている、直属騎士徒士にも動員を命じた。

 帝国も本気になったのだ。

 帝王が危機感を持ったのだ。


 だが、帝国は腐り切っていた。

 見掛け倒しの虫食い状態だったのだ。

 動員命令を受けた譜代貴族士族は、色々と言い訳をして領地から出陣しなかった。

 帝室貴族も同じだった。

 直属騎士徒士も、戦いを恐れて隠居届を出し、とても戦場に行けないような幼子を当主にしてしまった。


 いや、それはまだましな方だった。

 帝都に逃げ込んでいた譜代貴族士族は、全財産を持って、戦場となっていない親族の領地に逃げ出してしまったのだ。

 帝室貴族も同じように逃げた。

 直属騎士徒士の中にも逃げ出す者がいた。


「城門の兵士に伝える。

 武器を棄て、城門を開けて投降せよ。

 抵抗せずに投降した者の命は助ける。

 一旦戦闘が始まったら、一切の助命はないと思え。

 繰り返す。

 武器を棄て、城門を開けて投降せよ。

 抵抗せずに投降した者の命は助ける」


 帝都を厳重に包囲したレーナ姫達は、無理な城攻めはしなかった。

 降伏投降を呼びかけて、一度は助命の機会を与えた。

 だが帝国の騎士や徒士も、多くの味方の中で、率先して投降するとは言えなかった。

 少なくとも彼らは、逃げ出さない程度には忠誠心を持っていた。

 もっとも、残った騎士と徒士は、領地をもたない扶持制度の、下級騎士と徒士が大半だったと言うのが後で分かったのだが。


「城内の奴隷達に伝える。

 武器を取って戦え。

 我らが勝利の暁には、戦った奴隷は開放する。

 大公家の領民としての権利を与える。

 奴隷から解放されたい者は、武器を持って戦え!」


 七日間帝都を包囲し、帝国軍に降伏投降を呼びかけた後で、今度は奴隷に蜂起を呼び掛けた。

 三日間奴隷に蜂起を呼び掛け、帝都中が不安に揺れる状況を創り出してから、大魔境で身体強化した斥候が城門を越えた。

 城門を越えて奴隷小屋を開き、奴隷達を蜂起させた。

 帝都には莫大な数の奴隷がいるのだ。


 奴隷の夫婦から産まれて、産まれ持っての不幸な奴隷。

 各地の領民だった者が、税が払えず奴隷に落とされ、帝都に売り払われて来ていた奴隷。

 外様の貴族士族の家臣だったが、家が潰され奴隷にされた者。

 そんな奴隷達は、驕り高ぶった帝都の民に嬲られていた。


 それが解放されたのだ。

 自分達を開放しいてくれる大軍が、城外を包囲しているのだ。

 武器を取り戦わない訳がなかった。

 自分達を嬲った帝都の民に報復しない訳がなかった。

 帝都は生き地獄となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る