第37話

 藍色の騎士はフィン・ユング団長だった。

 釣り野伏の止めを刺すべく、背後に迂回して突撃したのだ。

 その効果は絶大だった。

 赤備の騎士の恐ろしさは、実戦で嫌と言うほど身に染みていた。

 外様の貴族士族は、その後暁の騎士団の事を調べていた。


 だから蒼騎士と藍騎士の事も知っていた。

 赤騎士に匹敵する騎士で、団長と副団長だと知っていた。

 その噂は、全ての将兵に広まっていた。

 その三騎士に包囲されたのだ。

 恐怖で足が怯むのはいいほうで、逃げ出す者が数多く出てしまった。


 それも仕方なかった。

 第一次討伐軍に参加した貴族士族は大損害を出している。

 それを間を置かずに連戦で第二次討伐軍に従軍させられている。

 将兵の質が著しく低下している。

 戦場で踏ん張る事など無理なのだ。


 その事はノアも気が付いていた。

 生来の臆病者だ。

 逃げる事は大の得意だ。

 戦場に出る事が決まってから、付け焼刃で乗馬の練習はしていた。

 だが、暁の騎士団の包囲を単独で逃げるのは不可能だと理解していた。


「我を護れ。

 我を護り切ったら、大公国が正された暁には、大きな褒美を与える。

 だから命懸けで我を護れ。

 さあ。

 先陣を切って進め」


 ノアは本陣を護っていた外様貴族に命懸けの任務を与えた。

 外様貴族もノアが嘘をついている事は分かっていた。

 いや、ノア自身は本気で言っているかもしれないが、帝国がそんな事を認めないのを嫌と言うほど理解していた。

 だがここで突撃しなければ、言いがかりをつけられて、家を潰されるのも理解していた。


 だから藍騎士に向かって突撃しようとした。

 後方を突破して逃げるしかないのは、ノアも理解していた。

 その為、蒼騎士への備えが疎かになった。

 極一部の兵士を除いて、蒼騎士から眼を離してしまった。

 それが致命的だった。


 テオは強弓を引き絞った。

 専業の弓兵が、一人張りで二十キロが、標準の弓張りだ。

 遠矢を行う強弓兵で三十キロ張りの弓を使う。

 剛力自慢の極少数の強弓兵でも、二人張りの四十キロ張りだ。

 それなのに、テオが使う弓は十人張りの二百キロなのだ。


 普通は絶対にありえない事だ。

 そもそもそんな強い張力の弓を作ることが出来ない。

 だが大魔境がそれを可能にした。

 魔獣の骨・腱筋・皮を組み合わせて創り上げた複合超強弓。

 そして魔獣を数多く倒したことによる身体強化。


 その強化された身体と複合超強弓で、特殊な鏃の矢を使った。

 鏑矢と言われる、犬追い等のゲームで使う鏃だ。

 普通は殺傷能力などない。

 だがテオが十人張りの複合超強弓で射れば別だ。

 テオはノアを狙って超遠距離騎射を行った。

 

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