第36話

 アローンが影武者と一緒に、第二次討伐軍主力を釣りだしに成功したタイミングで、左右に布陣していた暁の騎士団が包囲殲滅に動いた。


 左翼からテオに偽装した騎士が先駆けを務める。

 暁の騎士団で三人に次ぐ騎士達の一人だ。

 万余の軍勢がひしめきあっていたが動けない。

 先の戦いに参加していた外様貴族士族の家臣達は、足がすくんで動けない。

 それほど前回のテオの突撃は凄まじかったのだ。

 その隙をついて、左翼は討伐軍を壊乱させた。


 右翼からは、アローンに偽装したテオも、ただ一騎無人の荒野を往くがごとく、万余の軍勢がひしめき合う敵陣の中を突っ切る。

 新緑色の革鎧を着込むさまは、思わず見とれてしまうほどの、一服の絵を思わせる美しいさまだった。


 だが、その革鎧は美しいだけの装備ではなかった。

 質の良い鋼鉄のフルアーマープレートでも足元にも及ばない、強固な防御力を秘めている。

 日の角度によって、磨き上げた銀の鏡のように光り輝くのだ。

 そうなのだ。

 魔獣の鱗で表面が強化されているのだ。


 いや、見る者が見ればわかっただろう。

 余りに強大な力を持つために、滅多に狩ることが出来ない、大緑甲蛇の皮と鱗で創り上げられた、豊かな王族や大貴族しか手に入れる事の出来ない逸品なのだ。

 革鎧ではなく、光り輝く緑のスケイルアーマーだ。


 それを本人だけではなく、愛馬にも馬装甲として着込ませている。

 その愛馬を駆って敵陣を突き進むアローンに偽装したテオは、領民兵を無視して、点在する騎士と徒士を一撃で屠る。

 孔雀石の粉末で緑色に塗った長大な槍を振るうその姿は、鬼神も避けて通るだろう。


「矢だ!

 矢を射掛けて近寄らすな!」


 結局前回と同じだった。

 テオを止めるには、何か策を使わなければ無理なのだ。

 一騎打ちは当然として、多数での囲んでも不可能なのだ。

 だがその事は、ノアもよく知っていた。

 臆病なだけに、事前に調べられるだけ調べていたのだ。


 自分の周りに配した外様貴族に、拒馬と呼ばれる木組の柵を用意させていた。

 前回討伐軍を壊滅させた赤備えの騎士に対抗するため、馬の足を止める作戦だった。

 赤備えの騎士がレーナ姫の側にいたので、ノアは自分の前に拒馬を配置させていた。

 だが左翼と右翼からの突撃で討伐軍は大混乱に陥っている。

 特に右翼からの突撃は、ただ一直線にノアを目指してくる。


 急いで拒馬を移動させ、弓隊の配置を変えて、緑備えを迎え撃とうした。

 だが、それは不可能だった。

 蒼の騎士を迎え撃とうと陣替えをしている最中に、後ろが崩れた。

 背後から藍備えの騎士が突撃してきたのだ。

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