第29話

「帝王陛下。

 オットーが破れました」


「無能だな。

 それとも外様共が力を抜いたか?」


「残念ながら、予想以上に大公軍が強力なようでございます」


「消耗していないのか?」


「残念ながら、密偵が全て殺されてしまいましたので、外様の報告だけしかありません。

 ですので、正確な所は分かりません」


「傭兵達がいたのではないのか?」


「皆殺しになりました」


「外様の損害は」


「甚大と言う報告でございます」


「真実か?」


「密偵も傭兵も全滅しており、真実は分かりません」


「次はノアに行かせろ。

 オットーの遺児の名代として、宰相の位をくれてやれ」


「承りました。

 従軍は外様だけで宜しいでしょうか?」


「外様共には、名誉回復の機会を与えてやれ。

 今回軍資金の供出だけで、従軍を逃れた外様も全て従軍させろ。

 それと密偵の数を増やせ。

 何度負けて構わないが、情報だけは持ち帰らせろ」


「承りました」


 帝王は情け容赦のない決定を下した。

 長年に渡る圧政で、外様貴族の財政は火の車だ。

 中には主従一団となって財政再建を成し遂げた貴族もある。

 だがそんな外様貴族には、更なる役目が与えられる。

 せっかく改善した財政も、瞬く間に赤字となる。


 そんな外様貴族に、莫大な出費だけで見返りのない従軍を命じたのだ。

 それも敗戦後に間を置かずの連戦命令だ。

 普通の主なら、叱責はしても次の従軍は命じない。

 命じるとしたら、亡国間近の状態だ。

 だが帝国は違う。


 帝国は外様貴族を取り潰すために、力を削ごうとしている。

 外様貴族もそれを知っていたが、反抗しても全く勝ち目がなかった。

 だから隠忍自重していた。

 だが、そんな帝国に戦いを挑む者が現れた。

 大公国が立ったのだ。


 最初は簡単に滅ぼされると思った。

 だから唯々諾々と従軍した。

 それが大公国の圧勝だった。

 それも、赤騎士たった一騎に帝国軍が襤褸負けした。

 信じられないほどの大敗だった。


 希望が見えた。

 わずかな希望だった。

 帝国の強さを身に染みて知っているだけに、幻のような希望だった。

 だが、無視するには鮮やか過ぎた。

 諦めの心境と、光明を渇望する心がせめぎ合った。


 そこに再度の従軍命令が届きた。

 外様貴族士族は内心憤激した。

 多くの領民を失っていた。

 貴重な働き手を失ったのだ。

 来年は領民が更に飢える事になる。


 今迄も飢えていた。

 今度は餓死者が出るかもしれない状態だ。

 この状態で再度従軍すれば、確実に餓死者が出る。

 生き延びようと思えば、家族を奴隷に売るしかない。

 帝国に対する恨みと怒りが頂点に達していた。

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