第24話

 矢を射掛けられたテオ・メラ―だったが、全く怯むことなく、ひたすらオットーの首を狙って突き進む。

 多くの矢が降り注ぐが、狙いも甘く勢いもない。

 そんな矢では、テオ・メラ―のスケイルアーマーは勿論、愛馬の馬装甲すら突き破る事など出来ない。


「何をしている。

 さっさとやれ。

 たった一騎に何をしている。

 それでも傭兵か!」


「ちぃ!

 飾りがなんか言ってるぞ」


「ほっとけ。

 どうせ事が終れば殺されるだけだ」


 傭兵達は、何時も同じような戦いに雇われていた。

 名目だけの大将を据えた軍に雇われ、戦争と言う名の略奪に参加する。

 最後は名目の大将を密かに殺して、全てを帝国の利益としていた。

 だから、報酬以外に興味はなかったし、名目の大将は報酬をもらうための獲物でしかなかった。


 そして実際の戦いは、外様の貴族家と士族家が命懸けで血みどろになってやってくれる。

 傭兵団が加わるのは、勝利が確定した後で、命懸けで戦った貴族家と士族家を押しのけ、民から略奪する時だけだ。

 だが、今回だけは違った。


 貴族と士族の領民軍は、全く相手にならなかった。

 家の存亡をかけた貴族家と士族家の領民軍は、泥臭い戦い方だが、身を挺して命懸けの戦いをする。

 普通はそのような戦い方が一番相手が困る。


 綺麗に戦おうとする騎士が相手なら、一撃で屠れば横をすり抜ける事も出来る。

 一騎討ちを制すれば、素直に軍を牽いてくれる。

 当主や大将が人質に取られたら、もう戦いを止める。

 だが、帝国の罰を恐れる外様は、当主や大将を人質に取られても、彼らを見捨てて戦うしかない。


 そんな外様の貴族家と士族家の領民軍が、ろくに抵抗する事も出来ずに陣を抜かれ続けるのだ。

 余裕で構えていた傭兵団も、遂に本気で戦う覚悟を固めた。

 いや、戦う覚悟を固めたのは幹部だけだった。


 結成当初はそれなりに修羅場をくぐってきた傭兵団だったが、帝国の汚れ仕事を請け負うようになってからは、命懸けの戦いをしなくなっていた。

 団員の多くが飼い犬に成り下がっていたのだ。

 一度萎えた心は、もう元へは戻らなかった。


 特に汚れ仕事をするようになってから入ってきた者は、単なる数合わせの屑だった。

 そんな奴が、死神にも鬼神にも見える戦士が、ただ一直線に、名のある騎士や徒士を一撃で屠りながら近づいて来るのだ。

 その場に踏みとどまるはずがなかった。


「ギャァァァ」

「許してくれぇぇえ」

「勘弁してくれぇぇ」


 傭兵団の下っ端が逃げ出した。

 それにつられて、飼い犬に成り下がった連中も逃げ出した。

 友崩れを起こしたのだ。

 

 そして、軍の後方に位置していた傭兵団が逃げ出した事で、中軍と先軍にまで恐怖が伝播した。

 自分達の後方を護ってくれるはずの傭兵団が逃げ出した事で、中軍と先軍の領民兵の中で臆病な者が逃げた。

 裏崩れが起こったのだ。

 全軍が崩壊して逃げ始めた。


 だが、テオ・メラ―は逃がさなかった。

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