第23話

「我こそは、大公公女でシューベルト侯爵家当主でもあられる、レーナ・アロン様に仕える騎士テオ・メラ―。

 大公殿下の位を僭称する帝国軍総大将、オットー・ハーン。

 戦士として貴族として、わずかでも誇りがあるなら、我と一騎討ちせい!」


 テオ・メラ―は、ただ一騎、無人の荒野を往くがごとく、万余の軍勢がひしめき合う敵陣の中を突っ切る。

 真っ赤な革鎧を着込むさまは、思わず見とれてしまうほどの、一服の絵を思わせる美しいさまだった。


 だが、その革鎧は美しいだけの装備ではなかった。

 質の良い鋼鉄のフルアーマープレートでも足元にも及ばない、強固な防御力を秘めている。

 日の角度によって、磨き上げた銀の鏡のように光り輝くのだ。

 そうなのだ。

 魔獣の鱗で表面が強化されているのだ。


 いや、見る者が見ればわかっただろう。

 余りに強大な力を持つために、滅多に狩ることが出来ない、大赤甲蛇の皮と鱗で創り上げられた、豊かな王族や大貴族しか手に入れる事の出来ない逸品なのだ。

 革鎧ではなく、光り輝く赤いスケイルアーマーだ。


 それを本人だけではなく、愛馬にも馬装甲として着込ませている。

 その愛馬を駆って敵陣を突き進むテオ・メラ―は、領民兵を無視して、点在する騎士と徒士を一撃で屠る。

 朱で赤色く塗った長大な槍を振るうその姿は、鬼神も避けて通るだろう。


「矢だ!

 矢を射掛けて近寄らすな!」


 テオ・メラ―の勢いに恐怖したオットーは、周囲を護る傭兵達に喚き散らした。

 帝国正規軍を付けてもらえなかったオットーは、大公就任後に取り立てると言って、質の悪い傭兵を雇っていた。

 彼らに矢で迎撃するように命じたのだ。


 非道な命令だった。

 その辺りには、下級貴族と士族が陣を構え、必死でテオ・メラ―を防いでいたのだ。

 確かに、オットーから見れば、一方的に斃されているだけに見えただろう。

 だが、貴族の当主や譜代陪臣は、それでも命懸けで戦ったいたのだ。


 実力に差があり過ぎるので、簡単に殺されてように見える。

 それでも、逃げれば見逃してもらえたものを、家の為家臣の為、命を的に戦っての討ち死になのだ。

 そこに味方であるはずの、それも総大将であるはずの、オットーから攻撃を受けたのだ。


「おのれオットー!

 味方に矢を射掛けるなど、非道にも程がある。

 このような軍にはおれん、撤退するぞ」


「しかし殿様。

 勝手に逃げたら、帝国から罰を受けます」


「くっそぉぉぉ。

 帝国の外道がぁ。

 いつか、いつか必ず報復してやる」


 敵陣のあちらこちらで、オットーの非道を切っ掛けに、帝国への怨嗟の声があった。

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