第19話
「御父上様。
騎士団と徒士団の教育を、『暁の徒士団』のようにする事は出来ないでしょうか?」
「ふむ。
どのような教育をしているのだ?
『暁の徒士団』の勇名は、余も耳にしておった。
帝国との事もある。
採り入れるべきものがあるのなら、聞く耳は持っておるぞ」
たった一度の事でしたが、私が実際に見聞きした事を、御父上様に申し上げました。
父上が公式な裁定を下される間は、私も当事者でしたので、母上様にも姉上様にも御会いすることが出来ませんでしたが、全てが済んだ後は、奥に招き入れていただき、四人寛いで話すことが出来ました。
いえ、御三人は寛いでおられましたが、私は遠慮と緊張で硬くなっていました。
でもその遠慮と緊張を、母上様と姉上様が、真心で解きほぐして下さいました。
長年の辛く苦しい暮らしに凍り付いていた私の心も、陽に温められた雪のように、徐々に溶けていきました。
だからこそ、勇気を振り絞って献策出来たのだと思います。
何を言っても、優しく微笑んでくださるから、献策する勇気が出たのだと思います。
母上様と姉上様が、私に触れた手を、片時も離すまいとする愛情が、私に勇気を与えてくださったのです。
父上様が、笑顔を絶やさず、でも、大公としての威厳を湛えておられたから、間違っているかもしれない献策を、信頼して献策出来たのです。
父上様なら、私が間違っていたら、優しく厳しく指導してくださると、心から信じられたからこそ、献策出来たのです。
私が申し上げたのは、魔境に入って狩りをする権利を、貴族・士族・卒族・冒険者に限定する事でした。
その見返りとして、兵役の義務を課すというモノです。
私が必死で調べた範囲では、大公家の富と軍事力は、大魔境の恵みから来ていました。
多くの犠牲を払う、命懸けの恵みではありますが、それがあったればこそ、帝国にモノが言えるほどの力を蓄えられたのです。
それを、帝国や帝国派の者に与えるわけにはいきません。
大魔境から得られる富と、大魔境だからこそ身につく強さは、大公家に忠誠を尽くす者だけで独占しなければけません。
そう献策したのです。
それが認められたのか?
それとも帝国の風習に従った、忌み子と言う印象を払拭する為か、私の献策によって新設された兵団の設立式は、私を讃え封爵する式典ともなりました。
私は大公位継承権第二位の大公公女であると同時に、シューベルト侯爵家・ワルター伯爵家・ハーマン子爵家・ハーン伯爵家・ケーラー子爵家・メイラー男爵家・シュルツェ男爵家の爵位と領地を持つ大貴族となったのです。
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