第30話

 父上様は、モアがこれ以上不幸になるのを見過ごせなかったそうです。

 王都に戻れば、後見人がいないモアは、宮廷の魑魅魍魎共に食い物にされてしまう。

 イーハ王が必ず意趣返しをすると申されて、自分の寄力貴族に迎える交渉をされたそうです。

 キラン・バーンの悪事に加担して死んだ騎士家と徒士家が取り潰されています。

 その領地を男爵に陞爵されたオフラハーティ家に加増するように交渉されたそうです。


 イーハ王は男爵となったオフラハーティ家を加増すると言う名目で、敗戦した貴族士族の領地と皇家直轄領を移動させようとしたそうです。

 強かで陰険なイーハ王は、オフラハーティ男爵家を加増の為の領地移動を名目に、自分に味方する貴族士族の領地を加増しようとしたそうです。


 それを知った父上様は更に激怒されたそうです。

 オキャラン城の四ノ丸を占領していた父上様は、三ノ丸の城門を破壊して、三ノ丸にまで占領なされたそうです。

 これでイーハ王は完全に屈服したそうです。


 領地の入れ替えをやり直し、自分の派閥の貴族士族家の領地を現状維持とし、皇家に忠誠を尽くす騎士家徒士家に加増したそうです。

 イーハ王の皇家直臣に対する懐柔策だったそうですが、武名が地に落ちていたので、味方に引き込むことは出来なかったそうです。


 父上様の威光で、モアは女ながら男爵位を継承しました。

 皇国では稀有な事例です。

 全ては戦の勝利で得たモノです。

 やはり王侯貴族は戦に強くなければなりません

 勝てば全てが一変するのです。


 ですがその頃のモアは、まだ幼い童でしかありませんでした。

 男爵家に相応しい武力を整えるのは不可能でした。

 本人もですが、頼るべき家臣五人も討ち死にしています。

 イーハ王が軍役を言い出したら、出陣しなければなりません。

 父上様の寄騎男爵家になったとは言え、皇国の家臣なのです。


 そこで父上様は、最初に生き延びた家臣の隠居に後見人を命じると同時に、亡きダラ・オフラハーティの双剣術を、出来る限り伝えるように申し付けられました。

 次にギャラハー家に仕える家臣で、双剣を使う者を指南役に差し向けられました。

 幼かったモアがそう望んだのです。

 亡き父の跡を継ぎ、双剣術を極めたいと望んだのです。


 父上様はモアの望みに応じられただけではなかったそうです。

 軍役を命じられた時の為に、陣代を派遣されたそうです。

 五番目の兄上様、フィン兄を陣代に送り込まれたのだそうです。

 これではイーハ王も下手な手は打てません。

 オフラハーティ男爵家に横車を押せば、フィン兄上様が出て行きます。


 フィン兄上様に何かあれば、父上様の怒りはダラ・オフラハーティの時の比ではない事は、愚かなイーハ王やその側近貴族士族でも明々白々です。

 オフラハーティ男爵家に手を出す者は現れなくなったそうです。

 時を得たモアは双剣術を極め、今に至るのです。

 父ダラ・オフラハーティの敵を討つ機会をうかがいながら。

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