第90話 絶世の美女(一)

 いきどおりと。

 悲しみと。

 いとしさと。

 どうしたらいいのか、わからないまま。

 気がつくと、又、巻き戻していた。

『あぁ……』

 日高の、か細い声と。

 恍惚こうこつとした表情に。

(ダメだ。堪えられない)

 そう思っても。

 はるは。

 また、巻き戻して、日高の濡れ場シーンを見ずにはいられなかった。

 戦国時代。

 絶世の美女、安寿あんじゅは、多くの武士もののふたちに愛され、翻弄されていた。

「………」

 -もう一度-

 そう思ったとき。

 誰か来る気配がして、慌てて電源を切った。

「ただいまー」

「あっ日高、おかえりー」

 日高は、ソファに倒れるように座った。

「……あったかい……」

「あっ、ああ、今、テレビ観てたから。シチュー、温めるね」

 はるが、キッチンへ姿を消すと。

(………)

 テレビの電源を入れた。

 電源を入れて、録画の画面にピンときて。

 再生を押すと。

 自分の濡れ場のシーンで。

 すぐに音量を下げた。

(これか……)



 食事を終えると。

 結んでいた髪を、わざわざほどいて。

 ソファに移動した日高が、

「ねえ、はるちゃん、こっち来て」

 そう言った。

「何?」

 振り返って、はるがソファの前に来た。

「髪、ほどいたの……?」

 はるの言葉には返答こたえずに。

「ここに座り」

 日高は、自分の膝の上あたりを、ポン、ポンと叩いた。

(……ムリ)

 はるは、動かなかった。

「早く」

「無理」

「何で。早く座り」

「無理だから」

「もー」

 日高は、はるの手を取って、抱きよせて座らせた。

「言いたいこと、あるんじゃないの」

 はるを、後ろから抱きしめながら、耳元で囁いた。

「………」

「はるは、私の彼女なんだから、何を言ってもいいんだよ」

「……うん…」

「言ってみ」

「……うん。あのさ…」

「うん」

「お芝居してるとき……、どうなのかなあって……」

「あの、安寿役のやつ?」

 無言で、はるは頷いた。

「ベッドシーンっていうか、しとねシーンのときでしょ」

 もう一度。

 はるは無言で頷いた。

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