第88話 うたた寝

(寝てる)

 大学から帰ったら。

 ソファで日高が、うたた寝をしていた。

 実は。

 日高の方が、二センチくらい、はるより身長は低くて。

 体重も、はるより、四、五キロ軽い。

 お酒は時々ワインを飲んでるけど、お菓子はあまり食べないから、腰なんて折れそうなくらい、細い。

 で。

 すごくきれいな顔立ちをしている。

 瞳が大きくて、鼻すじが通っていて。

 何よりも。

 肌が白くてきれいなのだ。

 ちょっとだけ。

 頰に触れてみた。

 すべすべして、でも温かかった。

 髪にも。

 指を通してみた。

 絹みたいに、冷たくてサラサラしていた。

(黒髪もいいなー)

 いつもは茶色に染めているけれど。

 今度のドラマは戦国時代の絶世の美女役とかで、黒髪に戻していた。

(きれーなひと

 こんな、まじまじと見たことなかったな。

 じーっと見た。

(キスしたら、まずいかな。他人はアウトだけど、恋人はいいのかな)

 しばらく見つめて。

 はるが、日高にキスをしようとしたとき。

 日高の腕が伸びて、はるの体を、ソファに倒して、自分の体と入れ替えた。

(あっ)

「おちおち、昼寝も出来ないねー」

 上になった日高が、はるを見つめてそう言った。

「起きてたの⁉︎」

 はるが驚いたように瞳を丸くした。

「いつも言ってるじゃん。私、女優なんだよって」

 悪戯いたずらっぽく笑って。

「さて。これから私はどうするでしょう」

 日高は言った。

「やっぱり……あれかな」

 はるが言った。

「あれって何?」

「んー、じゃあ、キスかな」

「……正解」

 日高は。

(あっ……)

 まるで、はるを味わうように舌をからめていきながら、はるの右手に自分の指をからませた。

 全身で。

 -愛している-

 そう囁いているようで。

(夢みたい……)

 全身からだの力が抜けていく感覚に。

 はるは、ゆっくり、静かに。

 瞳を閉じた。

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