第66話 チョコレート

「でも、いい話みたいになったけど、私にその話しないのは全然別の話じゃん!」

(うっかり、ほんわかした気持ちになっちゃったけど)

「たぶんだけど、はるちゃんが作詞した、サキさんの曲も、ロングランしてるからじゃないの?日高ちゃんのことだから」

 太一が言った。

(ありうる)

「おい、あんま日高責めるなよ」

 って社長は言ったけど。

 その夜、かなり遅い時間に日高は帰宅した。

「ただいまー」

「おかえり。ねえ、日高さ、ちょっと聞きたいんだけど」

「何?」

 ソファに倒れ込んだ日高の前に、はるはしゃがんで目線を合わせた。

「日高、役の中で歌、歌ってるの?」

「うん、そう」

「何で言ってくれなかったの?」

「別に」

「サキさんと会わせたくないから?」

 日高は、眉間にしわをよせて、珍しく不機嫌そうに、はるを見た。

「私、疲れてるんだけど」

「いつも何でも話してくれるのに、何でこの話はしなかったの?」

「………」

「ねえ」

 日高の手に触れたとき。

「だって、はるちゃんチョコくれなかったじゃん。これ、バレンタインの歌だったのに。他の人にはあげてるのに。私にだけ、くれなかったじゃん」

 って。

 日高は、本当に目に涙をためて。

 はるに抗議した。


 -奥プロ事務所-


「何、はる、日高にチョコ、やらなかったのか!」

 湯のみを持って。

 社長も。

 太一も。

 はるを囲むようにして。

「だって……」

「お前、俺たちにくれてたじゃん。なのに、日高にだけやらなかったのか」

 社長の言葉に。

「だって、日高には何か手作りかなとか思って、作ってみたんだけど失敗しちゃったし……。まあ、いっかって」

「まさか、祥子さんには?」

「あげた。普段、お世話になってるから」

「はる……、そりゃ、日高も怒るよ」

「はるちゃん。日高ちゃん、楽しみにしてたと思うよ。何か、僕たちも責任感じちゃうな」

 って、太一。

「いや、それは違うよ。私が何も考えてなかったんだ」

「まあ…、とりあえず、今は二曲目歌ってるみたいだしな。そのうち忘れるだろ」

「だといいけど」

 はるの予想通り。

 この日から、日高は隣に帰ってしまった。

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