第63話 花火大会

 ロケバスのドアが開いた。

 会場は、花火を見に来た人たちで溢れていた。

「人、すごいね」

 日高がはるに言った。

「だから直前に指定された場所に入ってって」

「わかった」

 日高は頷いた。

「ダメだ。寒い。やっぱ日高ドア閉めて」

 はるが言った。

 浴衣がしわになるから、薄いショールを羽織っているだけのはるに、

「寒い?」

 って、日高がぴったりくっついて来た。

「はるちゃん、一瞬で手、冷たくなるね」

 はるの手を温めながら、日高が言った。

「うん。夜だからねー」

 そう言う、はるの横顔を見ながら、

「はるちゃんの髪上げたとこ、初めて見た」

「そう……だっけ」

「うん。すごく可愛い」

「ありがと」

「……でも残念」

「何で?」

「人がいっぱいいるからキスが出来ない」

 日高は、本当に残念そうで。

 はるは、ちょっと笑ったけど。

「日高は、何か可愛いより、かっこいい感じになるんだね。髪、少し巻いているからかなあ。高校の頃の日高先輩って感じ」

「そう?」

「うん」

 はるは日高を見つめた。

 やがて、スタッフさんに声をかけられて。

「日高さん、はるさん、本番です」

 関君が表からロケバスのドアを開けた。

「行こっか」

「うん」

 二人は自然に手をつないで。

 人波の中を歩いて行った。

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