第62話 姫ちゃんとデート
撮影当日。
幸い、二月にしては暖かくて。
超寒がりで冷え性のはるも。
-いける-
浴衣姿になっても、震えずにすんだ。
現場には祥子が立ち会って見守っていた。
やがて、カメラが回された。
「行こっか」
はるが、姫花に声をかけた。
「手、つないでいいですか?」
「うん、そうだね。つなごっか」
二人は手をつないで、歩き出した。
「あー、本当の屋台だぁ」
姫花は、キラキラした笑顔でそう言った。
「何か食べよっか」
「わたあめがいいなあ」
姫花が言った。
「じゃあ、わたあめ食べよ」
二人でわたあめを買って。
その時、姫花が、
「HALさん、私、花村日高似って言われているけど本当は違うんです」
ぽつりと言った。
「え?」
「寄せていってるんです」
「そうなの?」
「昔、日高さんの舞台を観たとき、何てすごい演技をする女優さんなんだって思って。私、高校もダブって、もう辞めちゃえって思ってたんですけど、親にはお願いだからもう少しがんばって、とか言われてて。それで…、その日観た、日高さんの劇場のセリフで、“お前まだ何も努力してないだろ”っていうのがあって。ああ、そうか、私まだ何も努力してないやって思って。だから次の日からクラスで皆が嫌がる仕事を率先して引き受けたりして。そしたら、“姉ちゃん”ってあだ名で独特のポジションにつくことが出来たんです」
「そうなんだ」
「全裸になるお芝居も、私はあの日夜の部で観ました。観終わったら、マネージャーから、合格だって電話があって。それで運命だと思ったんです」
「ああ、あれ、観たんだ」
はるは、姫花を見た。
「私ね、あの日の、あの舞台から、日高は日高になった気がする。あの日から、女優としても日高としても、一気に駆け上がって行っちゃったんだよね。まあ、上手く言えないけど」
はるの言葉に。
姫花は、ゆっくり立ち止まった。
「どうしたの?」
「私、やっぱり自分の気持ちに正直でいたい」
「どういうこと?」
「私、やっとわかったんです。祥子さんと日高さんが誰を想っているのか。それと………HALさんが誰を想っているのか」
「……………」
「私も日高さんが好きです。だから、もう日高さんをまねするのはやめます。ありのままの自分に戻って、日高さんの前に立ちたい」
姫花は、そう言った。
「………うん、そっか」
「…………はい」
姫花は頷いて。
「すみません」
呟いた。
「謝ることないよ。好きっていう気持ちはどうしようもないもん。それよりさ、お祭り楽しもう!私、久しぶりにヨーヨー釣りしたい。ねっ」
「………はい!」
二人は笑顔で。
本当のデートのように、お祭りを楽しんだ。
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