第52話 英才教育

 食事も済み、紅茶を飲みながら、はると話し込んでいるときだった。

 ふと、

「はるちゃんって、英才教育受けてたでしょ」

 唐突に祥子はそう言った。

「…………いいえ」

「さっきのフランス料理、所作が完璧だったよ」

「今は高校ででも習いますよ」

 はるは笑った。

「ここ、元はお嬢様学校の寄宿舎なんだ。ほとんど直してないの。私の母校でもあるからねー」

 そう言って。

 祥子は、はるを見つめた。

「幼、小、中、高の、いつ、入ってたの?」

 祥子の言葉に。

 無言で、はるは祥子を見つめた。

「……なんてね。飲みすぎちゃったのかな。これ以上言ったら二度と来てくれなくなるもんね」

 祥子は微笑わらって。

「明日から海外に行かなきゃいけないから、はるちゃんの充電出来て良かったよ」

「長いんですか?」

「うん、二、三週間かなあ」

「大変ですね」

「帰って来たら、浴衣のCM作ろうね」

「はい」

 はるも、やっと笑顔になった。



 後部座席から降りると、

「がんばってね」

 祥子は、はるをハグした。

「はい。祥子さんもお仕事がんばって下さいね」

 祥子は、運転手の開けたドアの前で立ち止まって、ゆっくり座ると、窓を開けて、

「がんばってね」

 もう一度、その言葉を、はるにかけた。

 祥子を乗せた車を見送ると、

「はぁ………」

 はるは、ため息をついた。

 日高のいない部屋に戻るのは、本当に気が滅入りそうだった。

 オートロックの扉をくぐると。

(あっ)

 そこに立っていたのは。

 日高だった。

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