第33話 いい娘たち

 その日から。

 本当に、日高は、ストイックに女優業に打ち込んでいった。

 しばらくしてドラマの放送も始まって、社長は初回からの視聴率を紙に書いて事務所に貼っていった。

「19%、21%、23%………」

「だんだん、上がっていってるなあ」

「サキさんの主題歌も総合でかなりヒットしているらしいですよ」

 太一が言った。

「そうか。はるも大喜びだな」

 そこへ。

「お早うごさいます」

 はるが姿を見せた。

「おー、はる。ほら、日高、すごいぞー、20%乗せていったぞ」

「えー、すごいね。私も観てるよ。弁護士役似合ってるよね」

「愛の力だな」

 社長は、嬉しそうに、また視聴率の紙に目をやった。

「あ、はるちゃん、今日、祥子さんの所だっけ?」

「ううん。ちょっと寄っただけ。日高の実家に行く事になってるの」

「ほー、手伝いか?」

 社長の言葉に、

「ううん。私あんまり料理出来ないから、日高のお母さんにお料理習ってくるんだ」

「へえ」

「ほー」

 二人は声をあげた。

「でもまだ日高に言わないでね。せっかく仕事に集中してるんだから

「おう、わかった」

「それで、荷物多いから関君に送ってもらいたいんだけどいいかな」

「おお、もちろんいいぞ。関ー」

「はーい」

 給湯室から関君が手をふきふき、出て来た。

「関君、ゴメン。荷物重くて持てないから、日高の実家まで送ってくれないかなあ」

「もちろん、いいですよ。じゃあ、そのまま日高さんの所に戻りますね」

 二人が、仲良く事務所を出て行くと。

「はるは、いいお嫁さんになるなー」

 腕組みをして、しみじみと社長が言った。

「健気ですよね」

 太一もそう言って。

「いいたちばっかりで、僕は幸せだよ」

 もう一度。

 社長はしみじみと言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る