第二章

第22話 誇り

 -あなたがいるから、あたたかい-


 はるが、真っ白いコートを、玄関先で脱ぐと、セーラー服姿の女の子が、「お帰りー!」って、満面の笑顔で駆けよった。それを、はるが、抱きしめる。



 -はなれていても、あたたかい-


 椅子にもたれてうたた寝をする、はるに。ピンクのコートを着た女の子が、そっと近づいて静かにキスをする。はるの手から、本が床へすべり落ちて、はるは目を覚ます。そして、少女を見て、微笑する。


 この二つのシリーズが、CMで流れると、

『姉妹じゃなかったの⁉︎』

 って、センセーションを巻きおこした。





 -奥プロ事務所-


「ねえ、何これ」

 もはや通例となった、悶絶ソファで。

 テレビに映し出されるCMを観ながら、日高は、クッションを力いっぱい抱きしめながら。

 今日も、やっぱり悶絶していた。

「この、はるちゃんが着ている白のコートも、姫ちゃんが着てるピンクのコートも、もう品切れ状態らしいですよ」

 太一が言った。

「まだ、九月なのになあ」

 デスクから、社長も顔を上げた。


(そういうことじゃないんだけど)

 ソファがいたむから、って。

 社長が購入した、ピンクのハート型のクッションを抱きしめて。

 はると。

 日高が。

 かわるがわる訪れては悶絶してゆく。

「お前たち、本人に言やあいいじゃないか」

 って。

 一度、社長が言ったことがある。

 でも。

 二人の答えは同じだった。

 -仕事だから尊重している。だから、言わない-

 だった。

 トップモデルと、トップ女優が付き合っているんだから、キスシーンや、ベッドシーンがあるのは仕方がない。

 それを相手に言うのは、相手の尊厳を傷つけてしまう。お互い、プライドを持って仕事をしているのだから。

 で。

 双方、納得がいかない、人間的な感情を持て余すと、大抵事務所で愚痴って、ひとしきり悶絶して仕事に行くか、大学へ行く。

 そんな二人を。

 陰で。

 -うちのたちは、えらいんだ-

 そう、社長は言っていた。

 と、そこへ。

「ただいまー」

 ひょっこり、はるが帰ってきた。





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