第23話 将来

「あ、はるー!」

「日高、来てたの?」

 はるが、日高の横に座った。

 二人の指には、太陽と月が輝いている。

「はるは、今日は仕事ないの?」

「ないよ」

「そっか。私、ちょっと打ち合わせに行かなきゃいけないんだけど」

「日高ちゃん、そろそろ行こうか」

 太一が促した。

「がんばってねー」

「うん」

 後ろ髪を引かれるような表情で、日高は事務所を後にした。

 日高の姿が消えるのを確認してから、社長はおもむろに立ち上がった。

「はる、ちょっといいか」

「うん」

 社長は、はるの正面に座ると、

「祥子さんがな、契約更新してくれるそうだ。良かったな」

「えっホント?」

「ああ。はるが、がんばってくれてるから、僕も嬉しいよ」

「そっかあ」

「それでな」

 社長は真顔になった。

「まだ先のことだけど、浮き沈みのある世界だからな。今、はるは、モデルの第一線で活躍している。それは間違いない。でも、この先、必ず限界は来る。そのときのことで、祥子さんから打診があってな」

 どんな?

 はるが声を発する前に。

「YOSHIMURAの副社長として、はるを迎えたいそうだ」

 社長は言った。

「えっYOSHIMURAの⁈」

「まあ、ゆくゆくだから。ゆっくり考えればいい。はるの人生なんだから」

 社長は、つとめて明るく言った。

(私が?あのYOSHIMURAの?」

 はるは。

 何度も何度も、その言葉の意味を。

 くり返し心の中で反芻はんすうしていた。

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