第20話 指輪

 田舎の。

 まだ、カエルの声のする砂利道を。

 二人は、手をつないで歩いてゆく。

 いつもは、一歩外に出たら手をつなぐのは禁止で。

 キスも、ハグも禁止で。

 でも。

 誰もいない田舎道で。

 自然と二人は指をからめていた。

「ここ」

 はるが、立ち止まった。




 -R・Y工房-


 木の板に書かれたそれは、どう見ても、世界的ブランドYOSHIMURAの会長、RYOKO・YOSHIMURAの工房とは、考えられない素朴さだった。



「おばさん、また来ちゃった」

 はるが、工房に入ってゆくと。

「あら、またあなた。あれ、お友達も」

「こんにちは」

 日高も、ぺこっと頭を下げた。

「おいで。工場、開けたから」

 おばさんの後についてゆくと。

「わー、きれー」

 はるは、大きな木の机に、一点ずつ並べられたネックレスや、指輪に、釘づけになった。

 そして、振り返って、

「これ、買いに来たの?」

 って、日高に聞いた。

「うん。世界に全部、一つきりなんだって」

 恥ずかしそうに、日高はそう言った。

「そうなんだ」

 頷いて。

 はるは、すごく楽しそうに工場を歩いていたけれど。

 ある、一点の指輪の前で、足を止めた。


「ねえ、日高見て。これ、可愛くない?」

「どれ?」

 日高も、はるの横に立った。

「ほら、これ。月と太陽のやつ」

「ほんとだ。かわいいね」

 それは。

 太陽と月をデザインした、プラチナのペアの指輪で、それぞれ、太陽と月の下に、小さなダイヤモンドが雫のように、きらめいていた。

「可愛いね。これにしようか」

 日高が言った。

「うん」

 はるは頷いた。

 太陽が、日高で。

 月が、はるで。

 日高の指輪には、はるの名前のHARUKAを。

 はるの指輪には、日高の名前のHIDAKAを。

 それぞれ彫ってもらい、その場でサイズを直してもらって。

 はるが、日高のを買って。

 日高が、はるのを買った。

 そして。

 お互いの指に、それぞれはめると。

 日高は、

「どうしても、はるとおそろいの指輪が欲しかったの。でも、はるは、YOSHIMURAしか身につけられないから」

 はるに、小さく、囁くようにそう言った。

「S・YOSHIMURAのは、嫌だったんだよね、日高は」

「うん」

「ちょっと、感じてた」

 はるは、そう言った。


 二人は。

 おばさんに挨拶して、工房を出た。

 おばさん、いや、YOSHIMURAの会長は。

 最後に一言だけ、

「二人共幸せにね」

 って。

 微笑わらって。

 手を振った。

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